能藤玲子@「モダンダンス 5月の祭典」 2018

現代舞踊協会主催「モダンダンス 5月の祭典」で能藤玲子作品を見た(5月22日 めぐろパーシモンホール)。能藤は1931年網走市生まれ。藤間流杵屋之冨、石井漠門下古谷睦子に師事した後、51年から59年まで邦正美に師事。同年札幌市に「能藤玲子創作舞踊研究所」を設立した。師の邦はルドルフ・フォン・ラバン、マリー・ヴィグマンに学び、「身体育成法」を中心とした舞踊理論を確立。教員をしていた能藤は、北海道学芸大学で開かれた教育舞踊研究会で邦を知ることとなった(能藤玲子作品集『限られることの』掲載、長谷川六「能藤玲子の舞踊世界」参照)。
今回の『白い道』は、昨年「現代舞踊協会支部創立六十周年」記念公演で発表された作品。能藤自身が核となり、7人のダンサーが群舞を構成する。音楽はリチャード・ロビンス「ダーリントン・ホール」とあるが、記憶に残らず。目前の光景に驚き続けたからである。能藤はシモテ中央、ダンサーたちはカミテで円陣を組む。途中隊形の変化はあったが、この位置関係が決定的だった。
能藤はただ歩く、四股のような中腰から伸びながら両手を広げる、縮みながら腹を抱える、最後は両手を上げながら威嚇するように中腰になる。これだけの動きで空間を創出し、ダンサーたちを魔術師のごとく操る。円陣を組んだダンサー達は、能藤の分身のように中腰で辺りを睥睨する。また苦悶しつつ砂漠の「枯草玉」のように転がる。最後は座ったまま右脚を上げて同方向に回転する。感情や物語は明示的に語られないが、動きのみで、神話やギリシア悲劇を思わせる根源的な世界を現出させた。
能藤の動きは、映画がコマから成るように、一つ一つの強いフォルムの連続から構成される。一見スタティックに見えるが、実際は地面と直結した破格のエネルギーが体中に蠢めいている。パトスとロゴスが融合した虚構度の高い身体。邦の育成法に基づくものか、あるいは日舞の技法が入った能藤独自のものだろうか。
能藤を見ながら、前月に見た西川扇藏の西行を思い出した。歩くだけで西行、振り返るだけで西行。その仙人のような軽みは、大地から湧き出た地母神のような能藤と対極にあるが、一つの技法を極めた者のみが辿り着く突き抜けた境地という点で、共通していた。