新国立劇場『音のいない世界で』

新国立劇場の演劇『音のいない世界で』を見た。
作・演出は長塚圭史、振付は近藤良平、出演はこの二人に、首藤康之松たか子
子供のための民話風ファンタジーで、廻り舞台を使って場面転換する。長塚の作風は一本しか見たことがないので、よく知らない。その時は重苦しい印象があった。終わることができない感じの。今回は近藤色が入っている気がする。ほかほかと物語が進み、廻り舞台なので。
近藤君はいつも通り。舞台で自由自在。人を喰ったような、少し厭世的な。それより首藤君にとって良い作品だったと思う。シャイで表に出ることのできない性格が、そのまま生かされている。ガニ股でひょこひょこ歩く首藤を初めて見た。近藤の振付だと思うが、繊細でノーブルなガニ股。品の良さ、濃密な肉体は、誰にも真似ができない。しかも表に出ない体。歌もうたった。作ることをしない(許されなかったのか)ありのままの声。昨年のKAAT公演よりも、首藤がむき出しになっている。気持ちがよかった。
長塚はお父さんの声そっくり。節回しも。
松は座長格。何が起きてもどうにかしてくれる。作品の核心を絶対外さない凄さ。女の子(若妻)でいるときの可愛らしいふくよかな身体性、飲んだくれの羊飼いや、バイオリンを持った兵士のはちゃめちゃな精神性。すばらしい。お父さんより自在。

絶妙のタイミングでため息をつくおっさんが客席にいて、ガキ、と思った。後から見たら、妻と娘と三人連れ。一人ではそんな勇気はないだろう。