東京シティ・バレエ団『ジゼル』2015

標記公演評をアップする。

東京シティ・バレエ団恒例の夏公演は『ジゼル』全二幕。演出・振付は金井利久。今回はゲストバレエマスターに元シュツットガルト・バレエ団プリンシパルのローラン・フォーゲルを招いた。


金井版の特徴は、主役から脇役、端役まで、役の性根が入っていること。ラッパ手が本当に先触れとして吹いているのを、初めて見た気がする。洋風をなぞるのではなく、日本人の自分を通過する入り方のため、演技にはどこか新劇風の味わいがある。様式的には少し過剰かも知れないが、事情を唯一知るウィルフリードの演技から、ジゼルとバチルドの出会ってはならない関係が、改めて浮き彫りになった。


ジゼルは初日が志賀育恵、二日目が中森理恵、アルブレヒトは黄凱とキム・セジョン、その初日を見た。志賀は、かつてのあふれんばかりのエネルギーがクラシック技法で統制され、透明で緻密な体にさらに磨きがかかった。繊細な腕、生き生きとした脚。アルブレヒトへの想いが、ドゥミ・ポアントから全身に逆流する。また裏切りを知った後、ネックレスを捨てて倒れる時の脱力が素晴らしい。明るいはかなさが浴衣姿を連想させる、和風のジゼルだった。


黄は長年のパートナーの志賀が相手とあって、かつてのようなクールな面差しではなく、愛情に満ちた兄のようなアルブレヒトだった。本調子の技巧とはいかなかったが、剣を構える姿の神々しい美しさは相変わらず。はまり役である。


ヒラリオン役チョ・ミンヨンの熱血ながら抑えた演技、ミルタ・清水愛恵の地に足のついた演技、ベルタ・長谷川祐子の滋味あふれる演技、クーランド公(青田しげる)、バチルド(坂本麻実)、貴族達のわきまえた演技が、舞台に厚みを加える。


ペザントは森絵里と岸本亜生が明るさを振りまいた。村娘、村男の様式に則った溌剌とした踊り、ウィリ達のおっとりした踊りは、バレエ団の個性である。


井田勝大指揮、東京シティ・フィルの演奏は、もう少し乗りがあってもと思うが、端正で行儀がよかった。(7月11日 ティアラこうとう大ホール) *『音楽舞踊新聞』No.2957(H27.10.15号)初出