「2015年バレエ総括」

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2015年バレエ公演を振り返る(14年12月を含む)。


今年は芸術監督の力について考えさせられた。昨年就任した新国立劇場バレエ団の大原永子芸術監督、就任3年目の久保綋一NBAバレエ団芸術監督、今年就任の斎藤友佳理東京バレエ団芸術監督である。前二者は海外で現役生活を全うし、大原はバレエミストレスも経験。後者はロシア国立舞踊大学院バレエマスター及び教師科を、首席で卒業という経歴である。三者に共通するのは、優れた演出力(久保は振付も)、的確な配役、ダンサーの可能性を伸ばす指導力である。


大原は新加入ダンサーの即時抜擢など、一貫した芸術的基準の下に、平等でダイナミックなダンサー采配を続けている。『ラ・バヤデール』では、小野絢子、米沢唯、福岡雄大のトップスリーを組ませ、技術的にも演劇的にも高度な舞台を演出した。テレビ放映された『白鳥の湖』は、マイム役から民族舞踊に至るまで、国立の名にふさわしい格調の高さを誇っている。


久保のバレエ団改革は、まず観客のために舞台を作ることだった。公演数の増加に加え、ダンサーの技術・演技の向上も目覚ましく、若者に開かれたバレエ団に成長させた。創作では『HIBARI』、古典では『ドン・キホーテ』で成果を上げている。


斎藤はワシーリエフ版『ドン・キホーテ』の舞踊譜を作ったことで有名だが、芸術監督になってからの同版(第一部)は、さらに磨きがかかった。音楽性と演劇性の融合した細やかなマイム、主役ダンサーの役作りの深化は、明らかに斎藤の手に拠るものである。


劇場付属・給料制ダンスカンパニーを長年維持している金森穣Noism芸術監督は、アジアの身体とダンス・クラシックを結び付けた『Training Piece』(『ASU』第一部)、童話に現代批評を投影した『箱入り娘』、井関佐和子讃歌『愛と精霊の家』を創作した。『Training Piece』はバレエ団のレパートリーに最適。


海外来日公演では、ファテーエフ芸術監督下のマリインスキー・バレエが変貌を遂げた。古典、ソビエト・バレエに、演劇性重視の緻密な解釈を加え、現代のレパートリーとして蘇らせている。


国内振付家はベテラン健在。関直人(杉並洋舞連盟、井上バレエ団)の音楽性、佐々保樹(東京小牧バレエ団)の演劇性は他の追随を許さない。コンテンポラリー系では、オーガニックな島崎徹(日本バレエ協会)、スタイリッシュな井口裕之(テアトル・ド・バレエ・カンパニー)、音楽的な貝川鐵夫(新国立劇場バレエ団)、激烈な舩木城(バレエシャンブルウエスト)が、バレエ界に新たなレパートリーを提供。


海外振付家では、チューダー(スターダンサーズ・バレエ団)、クランコ(シュツットガルト・バレエ団)、ダレル(新国立劇場バレエ団)、マクミラン小林紀子バレエ・シアター)という英国の系譜を概観できた他、ヴィハレフ(日本バレエ協会)、アリエフ(谷桃子バレエ団)、ブルジョワ(京都バレエ団)が、それぞれマリインスキー・バレエパリ・オペラ座バレエ団の伝統を、演出・振付で伝えている。


女性ダンサーは、上演順に、酒井はな(ゲッケ)、井関佐和子(金森)、米沢唯のガムザッティ、永橋あゆみのメドーラ、小野絢子のベラ、長田佳世のオデット=オディール、志賀育恵のジゼル、島添亮子(マクミラン)、青山季可のジゼル、本島美和のジュリエッタ。番外は長谷川六、白河直子と寺田みさこ(笠井叡)。


男性ダンサーは、芳賀望のフランツ、井澤駿(ノース)、福岡雄大のヨハン、齊藤拓(坂本登喜彦)、小尻健太(金森)、山本隆之(チューダー)、大森康正のバジル、ラグワスレン・オトゴンニャム(ウォルシュ)、菅野英男のホフマン。番外はベケットを踊った山崎広太。


海外ゲストでは、小野絢子に大きさを与えたムンタギロフ、同じく小野の規範の殻を破ったコルネホが印象深い(新国立)。


今年はKバレエカンパニーの熊川哲也芸術監督が専属オケを作って10年、同音楽監督福田一雄は指揮活動60年を迎え、その記念コンサートも開催された。 *『音楽舞踊新聞』No.2961(H28.1.1/15号)初出