横浜ダンスコレクション『グロウリング Growling』2016

標記公演を見た(2月10日 象の鼻テラス)。横浜ダンスコレクションのアジア・セレクション[韓国]の枠組みで、日韓ダンス交流プロジェクトの5回目に当たる。上演時間1時間10分の前半は、ソウルダンスコレクション2014受賞振付家のキム・ジウクと、横浜ダンスコレクションEX2015選出振付家のタシロリエによる二つのソロ、休憩を挟んで後半は、二人によるデュオという構成だった。
面白かったのはキムのソロ。デュオはその面白さを確認するためにあった。冒頭、汚れたスーツ姿の男が、背中を見せている。こちらを向くと、シェーヴィングクリームで顔が覆われていた。スーツから物を取り出して床に置く。その間、カラスのカアーだか、牛のモーだかに宗教曲風の音楽が流れている。カミテ奥の床にはRELIGIONのブロック。キムは上着を脱いで、床の物ともどもブロックに向かって押し込み、REの文字のみを残した(その前に顔を拭っている)。最初はややグロテスクな体形と汚れた衣装に引き気味だったが、ソロ後半の電子音の踊りからグッと惹きつけられた。ただ跳ぶだけ、ロボット系のクキクキ動き、イグアナorオオトカゲ動き(デュオの方だったか)の一挙手一投足に、強烈な思考を感じる。ストリート系の動きで実存を感じさせるダンサーを初めて見た。デュオではタシロへのパトスの投げかけが嵩じて、呪術のような熱さが動きに加わる。終幕の、体で机を測る動きは、研ぎ澄まされた知性とパトスのあり得ない融合だった。やはり韓国人と日本人の違いを考えてしまう。途中、山崎広太の踊り狂いを思い出しはしたが。
TPAMとの共通プログラムだったので、西洋人関係者が客席前列に陣取っていた。キムのソロが中盤にかかると、その中の女性一人が、体を震わせ始めた。隣の女性が背中をさすっている。以前、青山円形で、黒田育世の自分の脚を蹴るソロを見ていた時、韓国人の女性ダンサーが泣きじゃくっていたのを思い出した。先の女性は、次のソロになるとケロッとして、デュオの時分にはいなくなっていたが。