谷桃子バレエ団『眠れる森の美女』2016

標記公演評をアップする。

谷桃子バレエ団が恒例の新春公演を行なった。演目はバレエ団初の『眠れる森の美女』。演出・振付は昨年の『海賊』に引き続き、元キーロフ・バレエのプリンシパル、エルダー・アリエフ、監修は同じくイリーナ・コルパコワである。


アリエフ版『眠り』は『海賊』同様、隅々までアリエフの血が通っていた。まずはスタイルの徹底。『海賊』はソビエト色が濃厚だったが、『眠り』はプティパ時代の優美で調和のとれたスタイルに統一されている。芝居も大仰さを避け、自然体。マイムはセルゲーエフ版を基にしているため少な目だが、舞踊が突出することもなく、まるで水が流れるように物語が進行する。


主な改訂は、一幕の編み物シーンを間奏曲に変えた他、一幕ワルツ、二幕パ・ダクション、三幕「シンデレラとフォルチュネ王子」が新たに振り付けられた。ワルツは農民たちの楽しげな様子がよく伝わる牧歌的な味わい、パ・ダクションは幻影のオーロラ姫と王子が通常よりも接近し、しっとりと愛を歌い上げる。「シンデレラと王子」は、物語が明確に伝わるクラシック・パ・ド・ドゥの傑作。『海賊』同様、愛のパ・ド・ドゥに、アリエフの優れた振付手腕が発揮された。


主役キャストは3組。その初日を見た。オーロラ姫の永橋あゆみは、理想的な造型。踊りに透明感があり、優美で自然。調和、気品、慎ましさを体現する。二幕ソロでは、難度を上げたアンシェヌマンで、幻想的な燦めきを表現した。触れることのできないイデアの世界を、コントロールされた肉体で現出させる離れ業を成し遂げている。


デジレ王子の三木雄馬は、ワガノワ仕込みの端正な踊りを披露。パートナーとの対話がもう少し望まれるが、ノーブルなスタイルをよく意識した王子像だった。


リラの精の佐々木和葉は、元来ロマンティックな美しいラインの持ち主。徒に大きさを見せるのではなく、体から滲み出るそこはかとないムードで、世界を統合した。オーロラと共に、アリエフ(またはコルパコワ)の『眠り』解釈の非凡さを示す象徴的存在である。一方、カラボス役のゲスト舘形比呂一は、柄としては適役であり、よく健闘していたが、アリエフ演出のエッセンスを伝えるには至らなかった。


フロリナ姫の齊藤耀と青い鳥の牧村直紀、シンデレラの山口緋奈子と王子の酒井大がみずみずしい踊りで、5人の妖精、宝石の精、森の妖精たちが生き生きとした踊りで、バレエ団の実力と層の厚さを証明している。指揮は河合尚市、演奏は東京ニューシティ管弦楽団。(1月15日 東京文化会館) *『音楽舞踊新聞』No.2963(H28.2.15号)初出