新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future 2016」

標記公演評をアップする。

新国立劇場バレエ団が恒例の団員創作公演「DANCE to the Future」を開催した。今回は、団のオリジナル作品『暗やみから解き放たれて』(J・ラング振付、14年)を組み合わせた3部構成。舞台を小劇場から中劇場に移している。アドヴァイザーは前回同様、平山素子。企画発案者だったビントレー前芸術監督の暖かい孵卵器のような雰囲気は払拭され、作品を作り切る、自分を出し切ることへの厳しさが公演全体に漂っている。劇場の大きさもさることながら、平山のフリーランスとしての経験がそうさせたのだろう。


全7作が並んだが、クリエイティヴィティの点では、貝川鐵夫のソロ作品『カンパネラ』がずば抜けている。キリアン、ドゥアトの文脈下にあるが、貝川にしかできない有機的な音楽解釈、それを動きに変換する際の「無意識」の大きな関与が独自性を強めている。初めて聴くようなリスト、初めて見るような動き。初日を踊った宇賀大将の清々しい男らしさ、二日目、貝川自身の全てを出し尽くした踊りが素晴らしかった。


振付の点で個性を発揮したのは、福田圭吾の『beyond the limits of…』と、小口邦明の『Fun to Dance〜日常から飛び出すダンサー達〜』。福田の音楽性豊かなハードでスタイリッシュな振付語彙、小口のバーレッスンに始まる小気味よいリズム感覚。前者では寺田亜沙子の美しい肢体、後者では小野寺雄の鮮烈な踊りが印象深い。8人と6人のダンサーそれぞれの個性を生かし、尚かつエンターテイメント性にも優れた二作品だった。


一部、二部の幕開けは共に女性讃歌。郄橋一輝の『Immortals』と、原田有希の『如月』である。郄橋作品は、リヒターが再構築したヴィヴァルディの『四季』をバックに、女神のような盆小原美奈を6人の男性ダンサーが崇める。盆小原の艶のある美しいラインが印象的。一方、原田作品は7人の女性ダンサーが、原初的な女性合唱と苛烈な現代音楽で、女性の生々しい業を描き出す。共に神話の世界に遡るスケールの大きさがあった。


様々なスタイルの作品を作ってきた宝満直也は、優れたコンテンポラリー・ダンサー五月女遥とのデュオ作品『Disconnect』を発表。フェイドアウトを多用する暗めの空間で、男女のすれ違いをスタイリッシュに描く。早廻しのような高速の動きに特徴があった。


最後は米沢唯の『Giselle』。ジゼルのソロ曲で、初日は小野絢子、二日目は自身が踊る。先行者としてはマッツ・エックを踊るギエムが想像されるが、そうした社会的擦り合わせなしに作っているようだ。自分の中の塊を外に出すことに主眼を置き、さらに小野に対しては己自身に肉薄するよう、剥き出しになることを要求している。


団オリジナルの『暗やみから解き放たれて』は、東日本大震災津波に呑まれた多くの人々を追悼するレクイエムである。海の底で波に揺られながら生と死の狭間を生きている人々。ドーナツ状の白いぼんぼりが魂のように、また雲のように上下して、時の経過を表す。終幕、人々は暗やみから逃れ、明るい死の世界に向かって歩き始める。


瞑想的な音楽、美的な照明の美しい作品だが、やや散漫な印象を受ける。初演時セカンド・キャストが示したような解釈が加われば、日本のバレエ団が踊る意義はさらに深まると思われる。(3月12、13日 新国立劇場中劇場) *『音楽舞踊新聞』No.2968(H28.6.1号)初出