日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」2016

標記公演を見た(8月3日 新国立劇場オペラパレス)。文化庁公益社団法人日本バレエ協会が主催する「全国合同バレエの夕べ」が、今年も開催された。文化庁・次代の文化を創造する新進芸術家育成事業の一環である。全国の若手ダンサーに、オーケストラ演奏での古典バレエや多様な創作物を踊る機会を与え、同時に新進振付家に作品発表の場を与える、有意義な企画と言える。通常は2日公演のところ、今年は会場の都合で1日のみ。6支部、東京地区、本部出品の合計8作品は例年よりも少な目だが、依然として復興途上にある東北支部が、3年ぶりに参加し、内外で活躍するダンサーの現在を披露するなど、充実のプログラムだった。
今回は古典3作に対し、コンテンポラリー・ダンス4作と逆転現象が起きた(本部は恒例となった『卒業舞踏会』)。クラシック・ベースの創作はなく、全体に二極化した印象。まずは存在感を高めたコンテンポラリーから、上演順に、中国支部の『Nutella』(振付・キミホ・ハルバート)。バッハ、マイケル・ナイマン、ロバート・モーランの音楽をバックに、日常を慈しむ風景が15人の女性ダンサーによって描かれる。ハルバート初期の作品で、優れた音楽解釈、健康的なユーモア等、振付家の美点が生きている。若いダンサーにとって、コンテンポラリーの語彙に、地続きの感覚、等身大の踊りで取り組める入門好適作品。
信越支部の『Fly to moon, after me』(振付・高部尚子)は、2013年山梨国民文化祭で初演された。20人の女性ダンサーが、オーウェン・バレットの激しい現代曲で、立石勇人の宇宙的映像をバックに踊る。振付には、クラシック・ダンサーでなければ踊れない容赦ない技巧が含まれ、振付家の技巧家としての側面を思い出させる。だが何よりも、音楽を腑分けするその細かさ、鋭さ。変拍子の曲を自在に動きに変換する力がある。フォーメイションには幾何学的な計算を見せる一方、音楽を入れた体が、動きたいように動く、ある意味野蛮な振付で、圧倒的なパトス、訳の分からなさが充満。終盤は高部独特の過剰さに満ち満ちていた。
九州北支部の『Eat me, Eat me』(振付・大島匡史朗)は、15人の女性ダンサーと大島自身が踊るスケールの大きい作品。フォルムで見せるモダン系のパートと、発話を導入するコンテ系のパートが組み合わさっている。若いダンサーに自らの言葉で語らせる試みは、彼女たちにとって大きな経験となるだろう。ただし、ダンスそのものの魅力は、大島と女性一人が並列して踊った場面で発揮された。こうした求心力のある部分を、もう少し見たかった気がする。
九州南支部の『The Absence of Story』(振付・島崎徹)は、題名に反して、物語を濃厚に感じさせる作品。ブラームスのバイオリン・ソナタで、紫と茶の膝下丈ドレスを着用した14人の女性ダンサーが踊る。衣裳からも分かるように、モダンダンスの色合いが濃厚。ただし、一見モダン回帰と思わせながら、コンタクトを取り入れ、コンテの語彙を加えたハイブリッド・ダンスである。言わばオーガニック・グレアムといった趣。音楽と呼吸が完全に一致し、互いに気を発しながら踊るので、体によい踊りに見える。フォルムは美しいが、形だけではない。大地のエネルギーと直結した強靭な美しさがある。
古典3作は、幕開けの東北支部『パキータ』(改訂振付・佐藤茂樹)から。BRB所属の淵上礼奈と、ネバダ・バレエシアター所属の田辺淳を主役に、2人の女性ソリスト、アンサンブルが、明るく華やかな踊りで日頃の成果を披露した。淵上の堂々たる存在感、田辺の切れ味鋭い正統派ヴァリエーションが、支部のダンサー育成力を物語る。2人のソリストも魅力あふれるヴァリエーションを見せた。
関東支部の『ドン・キホーテ』第二幕より‘夢の場’(再振付・指導・西山裕子)は、ドルシネアに工藤彩奈、森の女王に西櫻子、キューピッドに江田有伽という布陣(ドン・キホーテ役は省略)。工藤は美しい体の持ち主。ミスが惜しまれるが、主役にふさわしい輝きで舞台を統括した。西の大きさ、江田の行き届いた踊り、優雅さを意識したアンサンブルと、全体に丁寧な作り。ダンサー西山の抜きん出た特徴である素晴らしい音楽性が、さらに反映されていたらと思う。
東京地区の『海賊』より‘花園の場’(改訂振付・本多実男)は、メドーラに平田沙織、グルナーラに清水愛恵、オダリスクに根岸莉那、青島未侑、斎藤ジュンという布陣。平田はもう少し強度が欲しいが、美しいラインでたおやかなメドーラを造形、清水は、メドーラの犠牲となる人の好い役どころが合っている。オダリスクでは第3ヴァリエーションが実力を発揮。アンサンブルを含め、全体に伸びやかで明るく、踊りが大きい。観客の呼吸が楽になる、ベテランらしい舞台作りだった。
最終演目は本部出品の『卒業舞踏会』(原振付・リシーン、改訂振付・ロング、指導・早川惠美子、監修・橋浦勇)。ドラティ編曲のヨハン・シュトラウスが強力な推進力を誇る、優雅で軽やかな一幕物。年ごとの配役が楽しみな、バレエ協会の貴重なレパートリーである。老将軍には、正確な踊りにコミカルな演技が生えるマイレン・トレウバエフ、女学院長は母性的でグラマラスな樫野隆幸が務めた。ラ・シルフィードの寺田亜沙子、スコットランド人の奥村康祐が、ロマンティシズムを奏で、鼓手の惠谷彰が、熟練の妙技を見せる。第一ソロの宮崎たま子は爆発的演技を、第2ソロの平尾麻美は、逢引きするようには見えないが、しっかり者の役どころを押さえている。愛らしい無窮動の星野姫を始め、若手・中堅ダンサーが一丸となって、夏の祝祭的な公演を締めくくった。
指揮は、舞曲の熱いパワーを舞台に注ぎ込んだ福田一雄、演奏はシアター・オーケストラ・トーキョーによる。