勅使川原三郎×山下洋輔『UP』2016

標記公演を見た(10月7日 東京芸術劇場プレイハウス)。構成・振付・美術・照明は勅使川原三郎、出演は勅使川原、佐東利穂子、山下洋輔(プログラム表記順)。勅使川原の演出は、相変わらず冴えている。繊細な薄闇や、大胆な逆光シルエットなど、照明の素晴らしさは言うまでもない。今回は高貴で野蛮なバルタバスばりの馬遣いが加わった。佐東と馬が刻む2拍子、3拍子に、山下のピアノが呼応し、緊迫感あふれるデュオが生み出される。ピアニスト、馬、ダンサーのこの座組みは、海外公演等の可能性を秘めていると思う。
一方、フリージャズの覇者、肘打ち奏法で有名な山下を招くからには、勅使川原自身の踊りも相応の変化を見せるだろうと予想していた。だが残念ながら、こちらの方も相変わらずだった。ジャム・セッションとは相互の呼吸を量り、意識が相手の体に入り込んで、自分の身体が変容するもの。これまでにない自分が立ち現れるものだと思うが、いつも通りの踊りである。山下のテンポの変化に、勅使川原の体はすぐさま反応する。あるいは、踊りで山下を挑発する。しかし、勅使川原の意識が相手に向かって流れ出したり、踊りの質が変わるようなことはなかった。
勅使川原の踊るデュオが、相手が誰であろうと、心身ともに触れない(触れたとしても相互的ではない)デュオであることは、必然なのかもしれない。予定調和、つまり美を目指すには、即興的要素は排除されなければならないから。
山下はプロとして、演出家の意図に極力沿っていた。つまり駒に徹していた。最後に破壊衝動の片鱗を垣間見せたが、終始、洗練されたピアノだった。途中、少なくとも2人の中高年男性が退室した。駒に徹する山下を、見るに忍びなかったのだろう。終演後は指笛とブラボーの嵐だったが。