キエフ・バレエ『バヤデルカ』2017

標記公演を見た(1月6日 東京文化会館)。『バヤデルカ』は、1926年キエフ・バレエが新発足した際、初めて上演された演目である(プログラム)。改訂振付はV・コフトゥン。第三幕の影の王国で終わり、ニキヤと奴隷のアダージョが含まれるソ連版(キーロフ版)である。通常よりもソロルとマグダヴェーヤのマイムが多く、一幕のガムザッティがヒール靴で登場するなど、古風な味わいも残る。婚約式のアンサンブル隊形が複雑になっているが、コフトゥンの手によるものだろうか。プティパのシンプルな面白さも捨てがたいと思うのだが。
キエフ・バレエは、ボリショイともマリインスキーとも違った形で、ロシアバレエの精緻なスタイルを保持してきた。2014年の『レ・シルフィード』と『シェヘラザード』に見られたロマンティック・スタイルと濃厚なマイムは、キエフこそがロシアバレエの保守本流であると思わせたほどである。今回は、若手中心のアンサンブルにではなく、主役のエレーナ・フィリピエワとデニス・ニェダクに、キエフの精髄を見た。
ニキヤのフィリピエワは、かつてのようなエネルギーを見せることはなかったが、ニキヤはこう踊られるべき、という規範を体現していた。磨き抜かれた身体、絶対的なラインの素晴らしさ。腕使いには一ミリたりとも余計な動きはなく、その厳しさ、隙のなさには粛然とさせられる。クラシック・ダンサーが到達すべき体と言える。婚約式のニキヤのソロは密度が高く、そこだけ空気が引き締まる。一点一画をゆるがせにしない踊り(両ポアントからのアラベスク!)が振付をなぞることにならないのは、常に新たな自分を生きているから。一幕の奴隷とのアダージョでは、巫女として心からの祈りを捧げている。
ソロルのニェダクはダイナミックでありながら、隅々まで意識の行き届いた丁寧な踊りで、マグダヴェーヤのヴィタリー・ネトルネンコ、黄金の偶像のミキタ・スホルコフと共に、ノーブルなキエフスタイルを披露。ガムザッティはミハイロフスキー劇場バレエのイリーナ・ペレン。踊り、マイムにスタイルの違いがあり、キエフ本来の『バヤデルカ』にはならなかったかもしれない。一方、パ・ダクションや影の王国のヴァリエーションには、ザハーロワ・タイプのダンサーがいて、バレエ団のスタイルの変化を窺わせる。フィリピエワの到達した境地はバレエ団の貴重な財産。その他の演目を見ていないので軽々には言えないが、跡を継ぐダンサーの出現を期待したい。ミコラ・ジャジューラ指揮、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団