3月の公演から2017

●Kバレエカンパニー『ピーター・ラビットと仲間たち』&『レ・パティヌール』(3月17日 オーチャードホール
本来はアシュトンのダブル・ビルだったが、間に渡辺レイ・熊川哲也振付による新作『Fruits de la passion〜パッションフルーツ』を挟んだトリプル・ビルに変更された。渡辺は山本禮子に師事した後、NDT2、リヨン・オペラ・バレエ、ヨーテボリ・オペラ・バレエ、NDT1、クルベリ・バレエを転戦したコンテンポラリー・ダンスの強者。昨年のアーキタンツ公演『REEN』では、柳本雅寛と共にクリエイティヴな動きで鮮烈な印象を残している。今回は標題通り、激しく鋭い動きで熊川を挑発し、熊川はバリシニコフ張りの鮮やかな踊りで応戦した。熊川のボルテージに拮抗する強いパトスを持つダンサーは稀少。バレエ団に振り付けた作品も見てみたい。アシュトン2作は素晴らしい仕上がり。『ピーター・ラビットと仲間たち』(71年/92年)はダンサーの全身が着ぐるみで覆われているのに、表情や感情がよく伝わってくる。あひるの小林美奈、こぶた(ポアント)の堀内將平、かえるの石橋奨也、悪いねずみの兼城将と涌田美紀、りすの伊坂文月など。特に悪いねずみは、ドールハウスの狭い場所で細かく踊る困難を感じさせなかった。『レ・パティヌール』(37年)はロイヤルバレエの遺産。一列前に座った副芸術監督のスチュアート・キャシディは、ダンサー達の動き全てに体をシンクロさせていた。見えたのは主にエポールマン。伝統が伝えられていく様を、まざまざと見ることができた。ブルーボーイの山本雅也は、美しい回転技、癖のない踊り、茫洋とした雰囲気が特徴。底知れぬ何かがある。ホワイトカップルの長身でノーブルな栗山廉、ブルーガールの音楽性と技巧に優れた矢内千夏など、次代を担うダンサーが誕生している。アンサンブルのロイヤルスタイルも清々しく、芸術監督の個性を反映した好プログラムだった。


●スターダンサーズ・バレエ団「バランシンからフォーサイスへ〜近代・現代バレエ傑作集〜」(3月25日 東京芸術劇場 プレイハウス)
演目はバランシンの『セレナーデ』(35年)、フォーサイスの『N.N.N.N.』(02年)、バランシンの『ウェスタン・シンフォニー』(54年)。バレエ団の伝統―米英の20世紀作品と創作―に則ったトリプル・ビルである。3作の中、最も印象的だったのが『セレナーデ』。振付指導はベン・ヒューズだが、牧阿佐美バレヱ団(ヒューズ指導)とも、新国立劇場バレエ団(P・ニアリー指導)とも、本家 NYCB やマリインスキー・バレエともニュアンスが異なる。ある種の生々しさ(舞踊評論家T・Aさんの言)、人間臭さが纏わりついている。スタダンを長年振付指導してきたメリッサ・ヘイドンのバランシン解釈が、バレエ団に浸み込んでいるのだろう。スタダン・ダンサーの自然な音楽性、自然な振付実施、肩の力の抜けたプロっぽい自己放棄が生み出した、老舗の『セレナーデ』だった。当日初日の配役は渡辺恭子、金子紗也、久保田小百合、大野大輔宮司知英(二日目は林ゆりえ、渡辺、喜入依里、大野、宮司)。もう一つのバランシン作品『ウェスタン・シンフォニー』は、アメリカのフォークソングに振り付けられたアメリカ・オマージュ・バレエ。各章4組のペア(林・吉瀬智弘、渡辺・加藤大和、鈴木就子・関口啓、喜入・安西健塁)が役に合った個性を発揮する。昨年加入した加藤は骨太になり、同じく喜入は、相変わらず意志の強いゴージャスな踊りで舞台を牽引した。フォーサイス作品はすでに『ステップ・テクスト』(85年)『アプロクシメイト・ソナタ』(96年)が入っている。どちらもポアントを使用した脱構築バレエだが、今回は、男性4人(友杉洋之、川島治、吉瀬、愛澤佑樹)が深い呼吸を伴った脱力動きで関係性を作る、いわゆるコンテンポラリーダンス。自分の呼吸で相手と関係を結ぶ難しさを、4人が見事に克服している。本来は人間そのものの味と実存が滲み出るような作品と思われるが、規範重視のバレエダンサーにとってはハードルが高かったかも知れない。振付指導は元フォーサイス・カンパニーの安藤洋子!と島地保武!


●杉並洋舞連盟第27回公演(3月26日 セシオン杉並)
杉並洋舞連盟公演の特徴は、バレエとモダンダンス(含コンテンポラリーダンス)の両方を守備範囲とする点。振付家に発表の場を提供すると同時に、連盟のジュニアダンサーにとっては、バレエの規範とモダンのエネルギーを経験する貴重な場となっている。演目は、小島崇行振付の『Flower Garden』、「スポットライト」として亀頭加奈恵のソロ作品『かなえちゃん』と橋本佳歩のデュオ作品『あれか…それか…これ。』、最後は東秀昭振付の『人魚姫』である。小島作品は、時田ひとしを軸に、草間華奈(東京シティ・バレエ団)と19名のジュニアが、モダンの表現主義的な動きを力いっぱい踊る。時田の悠揚迫らぬ踊り、異次元を作り出す佇まいに、草間の奔放な踊り、ジュニアのエネルギーが加わり、生の感情が喚起される舞台となった。亀頭のソロは「かなえちゃん」と呼びかけるナレーション入り。一見面白系に見えるが、剝き出しになるところが違う。手話風の動きなどムーヴメントも新鮮、よく考えられていた。橋本作品は、若い男女がりんごを置くことで対話するほのぼの系。最後はりんごを齧って終わる爽やかな創作だった。最後の『人魚姫』は、アンデルセン原作のバレエ作品。グラズノフの選曲が素晴らしく、練り上げられた演出・構成である。振付は音楽と一致、クラシカルなマイムで物語を折り目正しく伝える。海草をあしらった美術や、適切な衣裳、明快な小道具など、物語バレエの骨格も堅固だった。主役の三浦早七子は、優雅な踊りと真っ直ぐな感情表現で、人魚姫の生涯を生き抜いた。終盤、王子の今勇也(牧阿佐美バレヱ団)を刺そうとする際の葛藤はリアル。無音のまま、何度も刺そうとしては止めることを繰り返す。ジュニアにとってはハードに思えたが、三浦は全身全霊でやってのけた。王子の婚約者(古瀬望)、姉たち(武井久美子、山谷玲)、父王(亀田琢也)、従者(岩瀬一秋)、魔女(堀内慎太郎)を始め、オダリスク風の友人、モダン系の魔女手下など、隅々まで演出の手が入り、アンデルセンの世界が出現した。