4月に見たダンサー2017

4月に見たダンサーの中から、印象に残った2人について短くメモしておきたい。

●荒井成也@井上バレエ団『ナポリ』第3幕から(4月8日 NHKホール)
NHK バレエの饗宴2017」の一環。荒井はフリーを経て、14年井上バレエ団に入団。主役・ソリスト役を踊り、15年『ゆきひめ』(関直人振付)の若者では、関の美しいノーブル・スタイルを見事に体現した。今回は、ブルノンヴィルの華である男性主役のジェンナロに配され、「これぞまさしくブルノンヴィル・スタイル」という踊りを披露した。その優れた音楽性、男らしい敢然たるパの遂行、踊りの切れ。さらに、ヴァリエーションの流れ、緩急、アクセントがスタイル通りに作られて、ブルノンヴィル特有の高揚感を見る者にもたらした。久しぶりに見たブルノンヴィル・スタイルだった。
男性ゲストには常連の中尾充宏を始め、江本拓、浅田良和、貫渡竹暁が集結し、ペトルーシュカ・ブロホルムの指導を仰いだ。中尾は長年、井上バレエ団主催のブルノンヴィル・セミナーを受講、ブルノンヴィル公演にも出演を重ねている。その晴れやかで自然な佇まいは、ブルノンヴィル作品の魅力を知り尽くした者にしか出せない味だった。江本は先ごろ、新国立劇場バレエ研修所でジェイムズを踊ったが、自然派中尾と並ぶと、エポールマンの鋭さが古典バレエ寄りに見える。デンマークの素朴さ、野蛮さよりも、宮廷の洗練に近く、改めてブルノンヴィル作品の固有性を思わせた。浅田はダイナミックなタランテラで劇場を圧倒(少し規範からはみ出ているが)。貫渡は生き生きとした踊りで、元気な若者を描出した。フィナーレの盛り上がりは、井上バレエ団ならでは。少し古風な献身性が求められる作品である。


●新村純一@「YUJI SATO BALLET FESTA 6」(4月22日 めぐろパーシモンホール
佐藤勇次氏のスタジオ生とゲストダンサーによるバレエ・コンサート。カールスルーエ州立歌劇場時代を含む、佐藤氏のバレエ人生すべてが注ぎ込まれた古典パ・ド・ドゥや、門下生の創作物が並ぶ。渡欧時代の師、ジェルミナル・カサドが昨年亡くなり、追悼の意を込めて、カサド作『真夜中の時』が山本隆之によって踊られた。プログラムにはカサドの略歴と舞台写真、デザイン画、佐藤氏を描いたデッサン画、カサド作を踊る佐藤氏の写真、そして佐藤氏の追悼文が掲載されている。
新村はパートナーの根本佳奈と自作を踊った。十字架をモチーフにしたドラマティックなパ・ド・ドゥ。根本のスレンダーな姿態、美しい腕使いもさることながら、改めて新村のダンサーとしての力強さに驚かされた。バレエの規範に則った腕の力感あふれる美しさ、一気に異界を出現させるパトスの強さ。タイプとしては、マクミラン・ダンサーに分類されるだろう(ロイヤル・バレエ・スクール出身)。マクミランの負の部分をノーブルに造形する、ムハメドフ系の。