NBAバレエ団『葉は色褪せて』『真夏の夜の夢』2017

標記公演を見た(5月20日13時 新国立劇場中劇場)。米国で活躍した英国人振付家によるダブル・ビルである。チューダーの『葉は色褪せて』は、75年ABTで初演(ドヴォルザーク弦楽四重奏ピアノ三重奏を使用)。4つのパ・ド・ドゥを中心にソリスト・アンサンブルが入り混じり、男女の様々な風景を描き出す。最初と最後に、裾を曳くロングドレスの女性が、思い出に浸るようにゆっくりと歩を進めるので、女性の追憶の情景なのだろう。踊りはたゆたうように流れる一方、ドヴォルザークの民族性を生かした勇壮なステップも含まれる。指導は元ABTプリンシパルのアマンダ・マッケロー。細やかな上体遣い、神経の行き届いた丁寧な踊りが実現された。
配役2組のうち、初回キャストを見た。最初のpddは、竹内碧・宮内浩之のロミ&ジュリコンビが、春を思わせる爽やかさを表現、第2pddは、岡田亜弓と大森康正が夏の情熱を語り合う。大森の岡田を見守る立ち姿から、すでにドラマが始まっている。その涼やかで真っ直ぐな佇まいは得難い個性。踊りの美しさ、対話のようなサポートは男性ダンサーのお手本である。縮むピルエット、離れたサポート、膝乗せからのリフトという離れ業も楽々とやってのけた。岡田は瑞々しいラインとひたむきさで、大森の愛情に応えている。第3pddは、米津萌と土橋冬夢が秋の情緒を醸し出す。米津の端正な踊り、土橋の、相手を注視する誠実なサポートが際立った。第4pddは、浅井杏里と清水勇志レイが、冬、ではなく、ユニゾンの多い闊達な踊りを展開した。清水はマズルカ風のソロでも見せ場を作っている。ロングドレスの関口には空間を作るパトスの深さがある。ただ歩むだけで、昔日の情景を浮かび上がらせた。
ウィールドンの『真夏の夜の夢』(音楽:メンデルスゾーン)は、97年コロラド・バレエで初演。23歳で創ったとは思えないほど成熟した作品である。マイム、ワイヤー使い、子役使用(ポアントなし)など、19世紀バレエの伝統を受け継ぐと共に、結婚式の場ではバロック風の音楽を使ったシンフォニック・バレエを挟み込んで、現代性を加えている。コミカルな振付(少し元気過ぎる所も)、難度の高いパ・ド・ドゥは見応えがある。オベロンが子供を肩車したまま、ティターニアをサポートする図は、この版を象徴する名場面だった。
キャストは適材適所、ダンサー達が生かされ、育っている。初回ティターニアの峰岸千晶はベテランらしい風格があり、ロバとのパ・ド・ドゥでは、その態度と行動の落差に妙な滑稽味が加わった。オベロンの宮内はゴージャスで堂々たる王様、献身的で人の好い高橋真之のパックとは相性もよく、男性同士のプロムナードにしみじみとした情感が生まれた。岡田・米倉佑飛のノーブルな恋人たち、竹内・三船元維の情熱的な恋人たちが、すったもんだを繰り広げる。特に、2月にジュリエットを生き抜いた竹内の思い切りのよさ、弾ける踊りと演技が目を奪う。同じく鋭いティボルトだった土橋は、今回真逆のボトム(ロバ)を演じて、大きさと責任感を感じさせた。竹田仁美はシングル・キャストのピースブロッサム。竹田の軽やかな踊りと優れた音楽性は妖精にふさわしく、パック高橋との脚技対決も楽しかった。シーシアスの西優一はあっさり派。ヒッポリタ武藤桜子とはやや年の差があるが、慈愛のこもった演技で恋人たちを祝福した。男女アンサンブルは揃って生きが良い。中でも、男性妖精の新井悠汰が際立つ踊りを見せている。
振付指導はABTやコロラド・バレエで活躍したサンドラ・ブラウン。プログラムにはブラウン、高橋、宮内、久保綋一芸術監督による座談会形式のインタビューが掲載されている。