島地保武 @ KAAT 『不思議の国アリス』 2017

標記公演を見た(7月26日 KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ)。演出・振付・美術(森山開次)、テキスト(三浦直之)、衣裳(ひびのこづえ)、音楽(松本淳一)、照明(櫛田晃代)が一体となった、高レベルのキッズ・プログラムである。中でも、言葉遊び満載の練り上げられたテキスト、遊び心満載のヘンテコ衣裳が素晴らしい。ハートのクイーン(下司尚実)が、透明風船入り巨大ドレスを操る姿は、一度見たら忘れられない。
アリスは可愛く達者なまりあ、白ウサギは不思議な存在感を放つ森山、さらに辻本知彦、島地保武、下司、引間文佳が、様々な役を兼任する。台詞が多く、“ダンス交じりの演劇”と言ってもよい本作で、最も驚かされたのは、島地だった。
これまで踊るところしか見ていなかったため、野太いバリトンが聞えたとき、すぐには島地の声だと分からなかった。声と身体は、当たり前だが一致している。島地の柔らかく大きな体は、実質のある低い声を発する楽器だった。この稀少な声と、巧みな台詞術(演劇学科演技コース出身)が、どれだけ空間の虚構度を支えたことか。さらに、作品半ばの自作ソロでも、ダンサー島地の固有性を改めて確認することになる。伸びやかで柔らかい大きな踊りは、フォーサイス・カンパニーはもちろん、Noism時代をも遡って、山崎広太作品時代を思い出させる。ただし若書きの瑞々しさは、美しさと力強さに取って代わり、独自の動きの質を獲得するまでの歴史/時間が加わっている。常に世界と対峙する懐の深い精神性は、当時から明らかだった。今回演出の森山とは、山崎作品のツアーを一緒に周った間柄である。島地が本来の姿を見せられたのも、懐かしい関係が底にあったからかもしれない。

*島地の最新振付作については、本ブログ(7/12付)を参照。