日本バレエ協会 「全国合同バレエの夕べ」 2017

標記公演を見た(8月1,3日 新国立劇場オペラパレス)。平成29年度・文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環。全国各地の支部所属ダンサーにとっては、オーケストラ演奏で踊る機会が、新進振付家にとっては、創作の場が与えられる貴重な公演である。今年は5支部、1地区が7作品を上演、両日とも、恒例の本部作品『卒業舞踏会』で締めくくられた。
初日は、ロマンティック・スタイルからコンテンポラリー・ダンスまでの多様なプログラム、二日目は、指揮者 福田一雄の独壇場だった。ドリーブ2作、ミンクス、ヨハン・シュトラウスⅡ世が並び、情熱あふれるパワフルな指揮が、シアターオーケストラトーキョーから熱量の高い音楽を引き出す。特に『コッペリア』は福田の意識がドリーブに混ざり合う、独自の境地を示している。ミンクスは同志。シュトラウスは踊りの喜びで、舞台をエネルギッシュに活性化させた(自身も優れたシュトラウス・バレエ『しらゆき姫』を構成)。
初日の幕開けは、東京地区『Ballet Brillant』(振付:佐藤真左美、バレエ・ミストレス:両川加奈子)。ハラルド・ランダーの『エチュード』を下敷きに、地区のダンサーの技量に合わせた振付を施している。バー・レッスンに始まり、ロマンティック・バレエ、クラシカル・バレエ、キャラクター混じりのスタイルを踊り分ける点に眼目がある。若手ダンサーにとっては教育的。木下真希、染谷知香、伊藤かりん、山本奈那の女性ソリストに、黒一点の高島康平が加わり、ジュニア連を牽引した。
二作目は、山陰支部『風花』(原振付:石田種生、指導:志賀育恵、BM:若佐久美子)。島根出身の石田が2000年に振り付けた作品を、地元のダンサーが偲んで踊る好プログラム。モーツァルトのピアノ協奏曲(ピアノ:横山和也)をバックに、北村香菜恵を始めとするロマンティック・チュチュの7人が、舞台半ばまで引かれた白い紗幕の前後を、静かに出入りする。当支部らしい美しいロマンティック・スタイルに、石田特有の静的フォーメイションが、しみじみとした和風の情緒を醸し出す。雪の精が消え入るように終幕。カーテンコールでは、石田のためにスポットライトが当てられた。
三作目は中国支部『動物の謝肉祭』より(振付:中筋賢一、BM:久保晴美)。動物キャラクターの反映はなく、白チュチュに黒チョーカーの女性陣と、黒一点の男性によって踊られるシンフォニック・バレエ。曲想をよく捉えた振付に、フォーキンの『瀕死の白鳥』がそのまま引用される。男女ソリスト(木目田美樹、上村崇人)、延平彩を始めとするアンサンブルのクラシカルなスタイルが素晴らしい。木目田はアダージョもさることながら、『瀕死』の永遠に伸びていく腕使いと頭使いに魅了された。上村は、研ぎ澄まされた美しいライン、ロマンティックなスタイル、正統的技術が揃い、ソロの見せ方も心得るプロらしいダンサーである。
四作目は四国支部『Mythology』(振付:櫛田祥光、BM:一の宮咲子)。カナヴァロや藤倉大の現代曲に、モーツァルトの『レクイエム』を組み合わせた音楽構成が新鮮。女性4人による人体のアマルガム雅楽風の音楽に付けた能のような動き、『レクイエム』での美しいシルエット歩行など、興味深い振付が随所に見られる。全体を統合するコンセプトが分かりにくく、演出面でもやや既視感があるが、バレエダンサーにとって貴重な体験になったのではないだろうか。
二日目の幕開けは関東支部コッペリア』第3幕より(改訂振付:中尾充宏、BM:島村睦美)。冒頭に介添えの女性(フルフォード佳林)を従えた神父(荒井成也)が、スワニルダ(榎本祥子)とフランツ(清水健太)を祝福、花嫁はブーケを投げて「結婚」の女性ソリストが手にする。ディヴェルティスマンも象徴的味わいより、街の人々のお祝いの踊りという印象が強く、二人の結婚を祝う幸福感に満ちた演出が施されている(神父と介添え女性も「祈り」のアダージョを踊る!)。埼玉ブロック初演時には、ブルノンヴィル張りの素早く細かい振付が、高速で踊られていた。今回は、バットリー多めは変わらないまま、より落ち着いた牧歌的雰囲気を醸し出している。中尾が長年、井上バレエ団で接してきた関直人版を思わせるが、当然、関の音楽性を真似ることはできない。中尾の音楽性が細部まで満ち満ちている。清潔で控えめなスタイル、細かい脚技、スワニルダはあくまで可愛らしく、フランツはノーブル、と中尾の美意識が行き渡った『コッペリア』だった。榎本のしっかりした踊り、清水の充実した踊りとノーブルなステージマナーが素晴らしい。ソリストは適材適所、中でも「あけぼの」の丹藤水貴、「戦い」の入道愛、池田武志、「結婚」の氏原瑠之介が印象深い。入道のグーが目に焼き付いている。
二作目は北陸支部ドン・キホーテ』第3幕より貴族の館(改訂振付:モトシマエツコ、BM:前田さとみ、中島昌美)。キトリの竹津栞奈は、軸のしっかりした回転が特徴で、確かな技術を持ち味とする。高3とのことで、細部の彫琢よりも、パワフルな勢いを大事にしたようだ。相手のバジルは谷桃子バレエ団の今井智也。引き締まった美しいヴァリエーションを披露した。演技はややニヒル。モトシマ演出の特徴は、伸び伸びと大きい踊りにある。ヴァリエーションの高山綾女、石谷志織を始め、キューピッドの児童クラスまで伸びやかに踊り、舞台にゆったりとした開放感が漂った。児童の行儀のよさも印象深い。
三作目は東京地区『Sylvia』(振付:石井竜一、BM:田所いおり)。バーミンガム・ロイヤル・バレエの佐久間奈緒と厚地康雄が、6組の男女ソリスト、18人の女性アンサンブルを率いて、ピラミッドの頂点に立つ。石井の優れた音楽構成、ノーブルで気品あふれるクラシカル・スタイル、さらに踊りを美しく見せる繊細な照明(中沢幸子)が渾然一体となり、輝かしいシンフォニック・バレエを作り出した。主役、ソリスト、アンサンブルそれぞれに対する的確な振付、音楽に則ったフォーメイションも自然で楽しい。ポアント音のなさは、細やかな指導の賜物。主役 佐久間の責任感あふれる佇まいと神経の行き届いた踊りが、引き締まった舞台を生む。アンサンブルを従えて踊るグラン・バットマンには、プリンシパルならではの強度と迫力があった。パートナーの厚地は、長身を生かした優雅な踊りを披露。6組の男女精鋭はスタイルが揃い、見る喜びをもたらした。
恒例の本部作品『卒業舞踏会』(原振付:ダヴィッド・リシーン、改訂振付:デヴィッド・ロング、指導:早川惠美子、監修:橋浦勇、BM:竹内祥世)は、今年も配役表を眺める楽しみがあった。老将軍に元東京バレエ団の高岸直樹、女学院長は、はまり役の足川欽也。高岸は昨年初めての女装役を経験し、キャラクターの面白さに目覚めた模様。持ち前の男らしさに加え、コミカルな受けも見事にこなしている。足川は佇むだけで、何を言わんとするかが分かる芸達者。女役の上品な可愛らしさ、教え子たちへの母性的な愛情、そこはかとないユーモアなど、何度見ても顔がほころぶ。ラ・シルフィードスコットランド人は、初日が酒井はなと奥村康祐、二日目が堀口純と池田武志。酒井の蠱惑的な異界の生き物、堀口の伸びやかな空気の精と、個性を生かしたアプローチが面白い。鼓手 高橋真之の的確な演技、即興第1ソロ 渡辺幸の可愛らしさ、第2ソロ 佐藤愛香の涼やかな佇まい、パートナー佐藤祐基と下島功佐のツボを押さえた演技、無窮動 貫渡竹暁の颯爽とした踊り、同じく吉田邑那の闊達な踊りが印象的。アンサンブルは完全に一体化し、仕上がりのよさを誇った。