島地保武×環 ROY 『ありか』 2017

標記公演を見た(9月8日 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ)。「KAAT Dance Series 2017」の一環で、企画・制作は愛知県芸術劇場。 出演はダンサーの島地保武、ラッパーの環 ROY。コラボのきっかけは、環がワイングラスをグーで握ったのを、島地が目撃したことに始まる(CINRAインタビュー)。3ヶ月に及ぶ創作期間(含共同生活)を経て、2016年4月愛知県芸術劇場小ホールで初演された。今年1月には豊川、9月の横浜公演の後、春日井、知立、山口を周る。
正方形の舞台2つを細いブリッジで繋ぎ、観客はブリッジを挟んで両側に座る。ダンサーの動きに応じて、テニスの試合を見るように左右に顔を動かすことになる。正方形の舞台は、田んぼの見立て。ラップや打ち込み(?)に混じり、カエルや虫の声が聞こえた。天井のあちこちで裸電球が点滅し、時折青色ライト、格子回転ライトが空間を作る。島地は紫花柄のタンクトップにトレパン、黒靴下。途中、大Tシャツに黒パン一丁になる。環は黒のパジャマ様ソフトスーツにグレーのTシャツ、グレー靴下。二人ともピンマイクを使用。
島地は初演時よりも体が変わっているだろう。フォーサイス・カンパニー時代や帰国直後の硬直した体に比べると、全体に体がほぐれ、有機的に再統一されている。関節をはずし、筋肉をすみずみまで動かす動き、ストリート系の動き、プロレス技風、フォーサイス+バレエ動き(パ・ド・ブレで歩み、バレエの脚使いで動く)。最後の動きは、パロディ。環が「ダセ」と言い放つ。一方の環は、ラップの指使いから広がった動き。常に自分の言葉(リズム、語感)から、動きが派生する。体は柔らかく、折りたためるほど。黒人文化というよりも、日本の四畳半から生まれたラッパーで、自分の出した言葉の語感と意味を瞬時に味わいながら、次の言葉を繰り出す即興詩人である。島地の美しいファルセットも素晴らしかった。
二人の絡みは、体同士の場合と、言葉で相手の動きを支配する場合がある。完全即興ではないので、測りながらのバトルだが、合間に見せる瞬時の動きに、野性が迸る。特に島地の優雅な野蛮さは、山崎広太と山川冬樹の完全即興(2015年12月 森下スタジオ)を思い出させた。山川のぶん回す電球が、山崎の頭に当たり、山崎は踊りながら足を捻挫し、シャベルを口に咥えて振り回す山川の前歯が折れた。ツアーには周れないと思うが、いつか島地の完全即興を見てみたい。