谷桃子バレエ団『白鳥の湖』2018

標記公演を見た(1月13日夜 東京文化会館)。谷桃子版『白鳥の湖』は1955年の初演以来、重要なレパートリーとして上演を重ねてきた。特徴は、マイムの保存、音楽の繰り返し尊重、白鳥群舞の動的で美しい隊形により、古典の格調の高さとドラマティックな展開を融合させた点にある。一幕の王妃にはコートレディ、弓持ち、小姓、貴族の女性が付き従う。二幕の王子登場でも、元は友人たちを従えていたかもしれない。本公演としては9年ぶり、芸術監督が代わって初めての今回は、指導者の交代に加え、衣裳が緒方規矩子と合田瀧秀から、ヴァチェスラフ・オークネフに、照明が中沢幸子から足立恒に変わっている。このため、視覚面は気品よりも華やさが前面に、楚々とした慎ましやかな女性陣は現代風に変化した。
主役は3キャスト。初日昼のオデット=オディールは竹内菜那子、同日夜は馳麻弥、二日目はオデットが植田綾乃、オディールが山口緋奈子、王子はそれぞれ三木雄馬、檜山和久、今井智也、ロットバルトは、安村圭太と横岡諒が勤めた。
所見回の馳は、ダイナミックな発散型で、黒鳥の華やかさがよく似合っている。大劇場でも存在感を発揮できるタフネスも魅力の一つ。今後は動きのさらなる彫琢と、パートナーとの細やかな対話を期待したい。王子の檜山はサポートも向上し、ノーブルなスタイルを身に付けつつある。役作りにも工夫があるようだが、大劇場のせいか、身体から感情や呼吸を読み取ることができなかった。音楽に身を委ねることも一つの方法だろう。
ロットバルトの横岡は、馳共々、7月の島地作品で魅力を発揮した。大きな踊り、相手と関わる力は今回も同じ。演技に渋さと気品があり、終幕の断末魔では深い感情がダイナミックな動きとなって躍動した。一方、道化の牧村直紀(他日はトロワ)も、7月の柳本作品で濃厚なコンテ・デュオを創出。今回は打って変わり、古典の規範に則った美しい踊りで献身的な道化を演じている。また、トロワの第1ヴァリエーションを踊った北浦児依の鮮やかな脚技が目に焼き付いて離れなかった。
王妃には尾本安代、ヴォルフガングには内藤博、コートレディは黒澤朋子、弓持ちは中武啓吾と、ベテランが脇を固める。白鳥群舞は二幕では伸びやかな美しさ、四幕ではドラマティックな激しさを身にまとった。バレエ団のDNAが着実に若手にも引き継がれている。
指揮は正統派の磯部省吾。格調の高い指揮ぶりが振付と合っている。三・四幕の間奏曲(パ・ド・シスより)も聞きごたえがあった。東京フィルはいつにも増して木管がよく聞こえ、ルースカヤのヴァイオリン・ソロも素晴らしかった。