Kバレエカンパニー『白鳥の湖』&『コッペリア』 2018

標記公演を見た(3月24日昼、5月24日 オーチャードホール)。演出・再振付は共に芸術監督の熊川哲也。『白鳥の湖』は03年、『コッペリア』は04年の団初演で、後者は8年ぶりの上演となる。初演当初は熊川自身が主役を踊り、若々しいエネルギーとスピーディなリズムが特徴だった。今回は2作とも、従来の音楽性豊かな踊りに加え、マイム・演技の充実が際立っている。熊川の持ち味である音楽的振付と、物語の展開をじっくり見せる演出が噛み合った、円熟の古典改訂だった。

白鳥の湖』当日主役は、オデット=オディールに矢内千夏、ジークフリードに栗山廉、ロットバルトに杉野慧という若手3人組。矢内は、優れた音楽性、高い技術、強いパトスが揃った本格派のオデット=オディールだった。グラン・フェッテのエネルギーはもちろん、一つ一つの動きに感情が行き渡り、特にマイムには心揺さぶられるものがあった。初演時よりも艶やかさが加わり、2年間の経験を窺わせる。舞台に立って雑念がなく、一瞬たりとも素に戻らないのが矢内の美点。終幕の晴れやかなオーラは、劇場を浄化する力があった。

ジークフリードの栗山ははまり役。ノーブルな踊り、控えめで鷹揚な佇まいは、ロイヤル・バレエの流れを受け継いでいるのだろう。対するロートバルトの杉野は、ダイナミックな踊り、鋭く濃厚な演技で、妖しい悪の世界を浮かび上がらせた。山田蘭の風格ある王妃、若手 佐野朋太郎の愛くるしいベンノ、伊坂文月の重厚かつ面白い家庭教師が、説得力のある演技で脇を固めている。

ソリスト陣、男女アンサンブル、白鳥アンサンブルとも、音楽性、スタイルの点で統一され、なおかつ演技も心得ている。その中でパ・ド・トロワの新人 佐伯美帆のクラシカルな踊りが一際目を惹いた。

コッペリア』も『白鳥の湖』同様、演劇面の充実が素晴らしい。通常、型にはまりがちな1、2幕だが、生き生きとしたコミカルな演技を楽しむことができた。英国バレエの伝統が息づいている。当日主役は、スワニルダが小林美奈、フランツが山本雅也の初役コンビ。コッペリウス博士は、キャラクター・ダンサーとして円熟味の増したスチュアート・キャシディが演じた。キャシディは初演当初、まだダンスール・ノーブルの面影が濃厚だったが、今回は老いの佇まいとコミカルな味わいを見事に融合、昇華させている。歩く姿を見るだけで喜びがあった。

スワニルダの小林は、タフな役を元気に踊り切った。確かな技術に加え、自分を舞台に投げ出すエネルギーの強さがある。強靭な脚が繰り出す細かな足技は、まるで歌っているように見えた。対するフランツの山本は適役。師匠譲りの美しい踊りに、泰然自若とした浮気芝居が加わる。小林を見守る大きさも見ることができた。若い領主には栗山廉、宿屋の主人は練達の笹本学、コッペリアは美しい由井里奈。「祈り」を踊った矢内千夏は、コントロールされた端正な踊り、パトスを内に秘めたしとやかな佇まいで場を魅了した。

コッペリア』には原典版を反映したラコット版、プティパ版復元のヴィハレフ版がある。熊川版はロイヤル版を土台とするが、最大の特徴は3幕の音楽構成だろう。2、3幕を続けるため、行進曲で場面転換し、冒頭は「仕事の踊り」、続いて『シルヴィア』ギャロップでコッペリウスにまつわるマイム・シーン、「時の踊り」、「平和の踊り」(スワニルダとフランツのアダージョ)が続く。さらに神父と「祈り」が登場し、神父が二人を祝福、『シルヴィア』のワルツ・レントで「祈り」が踊る。『シルヴィア』のワルツでフランツのソロ、『逸楽の王』パスピエで「ブライドメード」の踊り、「祭りの踊り」(スワニルダのソロ)、ギャロップで終曲となる。「戦争の踊り」は一幕フランツと友人たちの踊りに使用される。原曲を含め、『シルヴィア』、『逸楽の王』からも選曲したドリーブ・コレクションで、特に後者の民謡風メロディは熊川らしい選択と言える。

指揮は『白鳥の湖』とも井田勝大、管弦楽はシアターオーケストラトーキョー。熊川の音楽性具現に大きく貢献している。