牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』 2018

標記公演を見た(6月10日 文京シビックホール)。牧阿佐美バレヱ団は79年にウェストモーランド版『ライモンダ』を初演、再演を重ねた後、08年に総監督の三谷恭三が改訂を施した。今回は10年ぶりの上演となる。歴史舞踊の導入に加え、一幕グランド・ワルツの鮮やかなフォーメイション、二幕パ・ダクションの流れるようなリフト・フォルムに、ウェストモーランドの才能を見ることができる。物語上、白い貴婦人を省略し、夢の場にアブデラクマンが登場しないため、主人公の心理的起伏や葛藤が希薄に見える面もある。音楽性重視のモダンな解釈とも言えるが、物語性を補って余りあったのが、デヴィッド・ガーフォースの指揮だった。一音一音にドラマがあり、音楽で演出していると言っても過言ではない。華やかさ、深み、艶の揃ったバレエ指揮の粋。指揮者としての円熟の極みに立ち合える喜びがあった。
主役のライモンダは初日が青山季可、二日目が日高有梨、ジャン・ド・ブリエンヌは清瀧千晴、ラグワスレン・オトゴンニャム、アブデラクマンは菊地研、塚田渉。その二日目を見た。
日高のライモンダは、常に夢の中にいるような神秘性を重んじるアプローチ。リアリズムとは距離を置き、古典様式の体現にさらに輪をかけた、言わばアイコンのような存在を目指す。初演時以来のライモンダ像がよく伝わってくる。長い手足から繰り出される丁寧な踊り、ゆっくりと伸びるライン、すっきりとした佇まいが、心地の良い晴れやかな舞台を作り上げた。対するオトゴンニャムは、美しいラインと透明なロマンティシズムを漂わせるダンスール・ノーブル。回転技が安定しない場面もあったが、日高を凛々しく支えるジャン・ド・ブリエンヌだった。アブデラクマンの塚田は、ゆったりとした包容力を見せる。決闘場面でさえも、滔々と流れる大河のごとき敵役だった。
バレエ団は様式性、音楽性共に統一感のある仕上がり。グラン・パ・クラシックの美しさ、ワルツの音楽性が素晴しい。ライモンダ友人 太田朱音、阿部裕恵の優れた音楽性、トゥルバドール 山本達史、濱田雄冴のノーブルな踊りを始め、夢の場第1ヴァリエーションの中川郁が、閃きのある生きた踊りで舞台に薫風をもたらした。また久保茉莉恵、中川、高橋万由梨の明るく晴れ晴れとしたパ・ド・トロワ、中島哲也、坂爪智来他が見せた美しいパ・ド・カトルも印象深い。颯爽とした田切眞純美のドリ伯爵夫人、あまり見せ場はなかったが風格ある保坂アントン慶のアンドリュー2世王が脇を締めた。
東京オーケストラMIRAIが、ガーフォースの指揮に躍動する。グラズノフのあるべき姿を与えられ、奏者にとっても「経験」となるような音楽空間だった。