日本バレエ協会 「全国合同バレエの夕べ」 2018 ②

二日目幕開けは、関東支部『In the air』(振付:青木尚哉)。フィリップ・グラスの『奔馬』を使用、ミニマルに陶酔する音楽を18人の女性ダンサーが踊る。黒のレオタードからカラフルなドレスへの変身あり。中腰での前傾、床を使った動きに、バレエのパを織り交ぜた、音楽的というよりも、動きの追求に重きを置いた作品である。豊富なボキャブラリーを使った正面切っての振付は、若手にとって新鮮な体験になっただろう。
続く北陸支部『ゼンツァーノの花祭り』(改訂振付:坪田律子)と、東北支部コッペリア』より第3幕(再振付:力丸純奈)はロマンティック・バレエ組。『ゼンツァーノ』はアンサンブルを配しての上演だが、隊形がやや古典寄りに思われる。主役の岩本悠里と平野桜士は、難しい足技を軽々とこなし、技量の高さを示した。もう少し牧歌的雰囲気が漂えば、ブルノンヴィルらしさが増したかもしれないが、全員が心を一つにした上演だった。対する『コッペリア』は、時の踊り、夜明け、祈り、仕事、戦い、平和の踊り、ギャロップという構成。若手がそれぞれの踊りで練習成果を披露する一方、主役には大場優香と田辺淳の実力者を配し、じっくりと落ち着いたパ・ド・ドゥを見せた。佐藤理央、高橋一輝による晴れやかな「戦い」も見応えがある。
第二部は創作3作に、フォーキンのロマンティック・バレエ讃歌。九州南支部『ヴィヴァルディ“四季”より〜夏〜』(振付:西島数博)は、西島の過剰とも言える美意識がバロック音楽と合致している。今回はモダンダンスのテイストを加えた上でショーアップする振付。アンサンブルが暗転と同時に移動するフォーメイションなど、西島の音楽性がよく反映されている。橋本直樹と渡部真衣を芯とした男女の関係も明快。橋本の持つ奔放な色気、覇気が十全に発揮された。
続いては中国支部『Broken Pieces』(振付:ジョン・ヘンリー・リード)。銀杏模様の黄色とオレンジのドレスを着た19人の女性ダンサーと、2人の男性ダンサーによる群舞作品。バレエ、モダンダンス、ストリート系の語彙を駆使した振付に、モダンダンスの呼吸法が取り入れられている。必ずデュオで踊られるため、通常よりも肌の密着度が高く、踊りは自然な官能性を帯びる。日本人には出しにくい濃厚な息遣いを、支部の若手ダンサーたちは実現していた。男性ダンサーの技量と美しいスタイルも印象に残る。
創作3つ目は、四国支部『練習曲』(振付:山本康介)。シベリウスの『カレリア舞曲』より行進曲を使用。明るく明快な音楽に、英国系のクリスピーなアンシェヌマンが弾ける。二倍速のパの切り替えは、音楽と共に今でも目に焼き付いている。黒一点の野中悠聖には、高難度のソロを振り付け、技量の高さを知らしめた。余計なものが何もない清潔なエチュードだった。
第二部最後は、九州支部『レ・シルフィード』(再振付:坂本順子)。ソリスト、アンサンブルを含め、ポアント音なしの素晴らしいロマンティック・スタイルだった。美しいポール・ド・ブラ、永遠に伸びていくようなライン、しかも生き生きとした踊る喜びが加わっている。詩人の碓氷悠太、プレリュードの森重美沙季、ワルツの吉井亜紀、マズルカの乾晴香はこれ見よがしがなく、森全体が一つになって音楽と戯れる、一幅の絵のようだった。
公演を締めくくったのは、恒例の本部出品作『卒業舞踏会』(原振付:ダヴィッド・リシーン、改訂振付:デヴィッド・ロング、指導:早川惠美子、監修:橋浦勇)。高岸直樹の統率力とコメディの幅を持つ老将軍、マシモ・アクリの恋する女学院長(いつもより抑制的なマイムだが、故小林恭や橋浦勇の見せる女形芸とは異なる)、奥田花純の繊細で美しいラ・シルフィード、厚地康雄のノーブルなスコットランド人、佐藤理央の鮮やかなフェッテ競争など、キャスティングの妙がある。アンサンブルの仕上がりも、いつも通りレヴェルが高い。だがどこか一抹の寂しさが。本作を愛した人が客席にいないだけで、作品のあり方も変わるのだろうか。井上バレエ団公演プログラムのエッセイ同様、これまで存在して当然と思ってきた薄井憲二氏の不在を、痛切に感じさせる舞台だった。
福田一雄の指揮が舞台を情熱的に牽引。特にドリーブの夢見るような『コッペリア』、ヨハン・シュトラウスの一音からドラマが立ち上がる『卒業舞踏会』には、思わず体が動く舞曲の喜びがあった。シアターオーケストラトーキョーの演奏にもバレエへの愛情が感じられる。