阪本順治『エルネスト』2017

標記映画を昨年見た(10月18日 イオンシネマ板橋)。最近BS-TBSで、同監督の『顔』(2000年)、『団地』(2016年)を改めて見たので、昨年書いたメモをアップしてみる。


主人公はチェ・ゲバラの志を継いだ日系ボリビア人、フレディ前村ウルタード。冒頭のゲバラ広島訪問、最後のボリビア内戦以外は、フレディが医学生として留学したキューバが主な舞台。フレディはそこでチェ・ゲバラと出会い、母国ボリビアでのゲリラ戦隊に加わる。
日本・キューバ合作で、主演のオダギリジョーを除いて、ほとんどキューバ人俳優が動いているにも拘らず、阪本映画だった。一つ一つのショットにこう撮られるべきという意志と、人間に肉薄する深い情念が宿っている。美的なこれ見よがしのショットとは真反対の倫理的なショット。初めから終わりまで、身動きできなかった。
主演のオダギリは、スペイン語キューバ人たちとコミュニケーションを取る難役をこなした。役に不足がないのか、時折見かけたうまぶる素振りは微塵もない。冒頭の広島シーンでは、中国新聞記者役に永山絢斗がキャスティングされている。平和記念公園原爆ドーム原爆資料館を訪れるゲバラ一行(キューバ使節団)を、唯一取材する役回り。永山は『海辺の生と死』(17年 監督:越川道夫)で島尾敏雄役を演じるなど、いわゆる“昭和顔”である。「初期衝動のまま演じました。ビリビリ痺れることの多い現場でした」と語る通り、昭和の新聞記者をそのまま生きていた。ゲバラ役のホワン・ミゲル・バレロ・アコスタは永山とは一つ違いだが、とてもそうは見えない。ゲバラ(アルゼンチン人)を演じる初めてのキューバ人だという。「広島のシーンで共演をした永山さんは大変若いアクターですが、落ち着いていて、しかも同じ島国育ちだからか、キューバの役者と感受性が似ていると感じました。リハーサルを重ねて臨んだのですが、言葉が違っても二人で共有する世界を作り出せました」(プログラム)。広島シーンでの氷柱の立った記者会見場、報道カメラマンの広島弁に、魂を鷲掴みにされた。


『団地』についてはすでにアップ済み(http://d.hatena.ne.jp/takuma25/20160613/1465795640)。