日本バレエ協会「バレエクレアシオン」 2018

標記公演を見た(11月17日 メルパルクホール)。文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環である。フリーの振付家にとって、バレエダンサーに振り付けられる絶好の機会。これまで協会員だけでなく、様々な分野で活躍する振付家が参加してきた。ただし舞踏系振付家はまだ見ることができない。山崎広太と井上バレエ団、伊藤キムNBAバレエ団、鈴木ユキオと東京シティ・バレエ団が生み出した作品を考えると、バレエと舞踏の親和性は高く、今後の参加を期待したい。今回は山本康介振付『ホルベアの時代から』、柳本雅寛振付『ピーポーピーポー』、キミホ・ハルバート振付『Le Sacre du Printemps 〜春の祭典〜』のバレエ1作、コンテンポラリー2作が選ばれている。
幕開けの山本作品は、グリーグの同名組曲と他2曲を使用。抒情的なアリエッタを前後に、女性主人公が夢に誘われ、男性とのアダージョ、若い男女や女性アンサンブルを交えた踊りを経験した後、元の世界に戻ってくるロマンティックな構成。シモテ奥にはピアノ(演奏:佐藤美和)、カミテ奥に一本の木、最後に枯葉が降り注ぐ。冒頭 女性が一人、両腕をふわりと前方になびかせドゥミ・ポアントになった瞬間から、音楽と動きの密やかな一致に魅了された。音楽が聞こえる振付家もいるが、山本の場合は、音楽と戯れるような動きの創出に才能がある。自然で、ほんのりユーモアとペーソスの滲み出る振付。バランシンのエコー(セレナーデ・腕繋ぎあり)が、水色のロマンティック・チュチュ、ポアント音なしのアンサンブルによって、水彩画のように繊細な世界にこっそり嵌め込まれている。6番で踏み切り6番で終わるトゥール・アン・レールも可愛らしい。
主人公を踊った長田佳世は、高比良洋と組んで、大人のそこはかとない情感を醸し出す。その音楽性、美しい脚遣い、誠実さが作品の磁場となった。うつ伏せになり、皆が去った後、一人目覚めて木に向かう一足一足に、人生の機微を知った穏やかな境地を感じさせた。盆子原美奈と八幡顕光は、若々しいデュオ。華やかなリフトに、八幡はチャルダッシュ風の踊りも披露した。14人の女性アンサンブルは英国系の慎ましいスタイルを身に付けて、山本の指導者としての力量を明らかにしている。
二作目はプロレス技に似たコンタクトが特徴の柳本の作品。すでに谷桃子バレエ団にも振り付けているが、今回は女性20人が対象のため、どのような作品になるのか想像できず。結果は、持ち味を生かした女子プロレスのようなマニッシュで美的な作品だった。客席に背を向けた石神ちあきに向かって、ダンサーが次々と登場、左右に分かれて踊る冒頭から、全員が舞台奥に向かって少しずつ前進する終幕まで、ブルースのような渋さ。西部劇風の乾いたギター、ピアノと女声の二重唱、メトロノーム風の刻みといった井上裕二の音楽も、同じくやり過ぎない寸止めのかっこよさがある。振付はハードなコンテンポラリー、時に痙攣気味の体割り、そして十八番のコンタクト。中心の石神、梶田留以は、振付家の意を汲んで野蛮、津田ゆず香は意外にもきれいな踊りだった。マイクを持った女性ダンサーのコミカルな痙攣体割りが面白い。野戦病院のようなカオスも、柳本の鉄壁の美意識で統一されている。バレエを基礎とする正統派のコンテンポラリー作品だった。
最後はハルバート振付『春の祭典』。ストラヴィンスキーの音楽に魅了され、15年に自らのユニットで初演、今回はその再演である。多数の女性ダンサーが客席から登場するダイナミックな幕開け。男性ダンサーも加わり、男女が組んで、また男女グループに分かれて、様々なフォーメイションを形成する。プログラムの言葉通り、エネルギーの飛沫が舞台上に飛び交う。振付は音楽に即しているが、同時に原典版の生贄物語も反映する。内股や俯いての足踏みなどもニジンスキーの影響だろう。生贄はハルバート自身が務めたが、シモテに陣取る女性と、要所で現れる少女も重要な役割を果たす。相対するのは一種異様な肉体美を誇る佐藤洋介。特に少女との間に、危険とも思われる密度の高い異空間が出現した。生贄に至る道筋には分かりにくさが残るが、女性28人、男性7人、総勢35人をエネルギッシュに踊らせた渾身の意欲作だった。