谷桃子バレエ団『ラ・バヤデール』 2019

標記公演を見た(1月12日 東京文化会館大ホール)。同団の『ラ・バヤデール』は81年初演(当時は『バヤデルカ』)。スラミフ・メッセレルが演出・振付したもので、ゴルスキー版に基づく。ただし「黄泉の国」はチホミロフの演出を用い、ヴァリエーションも変えている。25年ぶりの全幕上演となった望月則彦再演出(06年)でも、ヴァリエーションが通常版とは異なっていた。

今回は芸術監督 髙部尚子による改訂振付である。演出の主な変更は、マクダヴェヤにスポットライトを当てたこと。序奏をレニングラード版の祝福の曲に変え、マクダヴェヤが、竪琴を弾くニキヤを見つめるシーンで始まる。さらに三幕冒頭でソロルに阿片を勧めたあと、マクダヴェヤは苦行僧から僧侶に昇進する。髙部はインドのカースト制度を作品に反映させたいと語るが(プログラム)、現在のところはニキヤを挟んだソロルとの関係が分かりにくく、配役の安村圭太をクローズアップさせる効果のみが際立った。舞踊面では、二幕に「祝いの踊り」としてインド舞踊が踊られる。また太鼓の踊りを復活させた。壺の踊りの子役がみつばち姿なのはメッセレル以来の伝統。

キャストは3組。初日ソワレを見た。ニキヤの永橋あゆみは、エルダー・アリエフ指導下でのメドーラ、オーロラの輝かしいクラシック・スタイルが記憶に新しい。今回は二幕での情感あふれる嘆きのソロ、三幕の透明感あふれる美しいクラシック・スタイルに個性を発揮した。特に三幕の貫禄あるチュチュ姿は、ダンサーとしての成熟を感じさせる。

ソロルは檜山和久。昨秋スタイリッシュな(?)北斎を演じたばかり。今回もクールでやや無表情な悩める男を造形した。ヴァリエーションはさらなる精度が望まれるが、一幕マイムは、いかにも軍人らしい力強さにあふれた。

ガムザッティには馳麻弥。奔放な踊りに妖艶な佇まいが、いかにも思い通りに生きてきた姫。バラモンの赤城圭はやや歌舞伎風、マクダヴェヤの安村は髙部改訂の通り、ノーブルなスタイルで演じている。内藤博のドゥグマンタは娘思いだが、なぜかコミカルな味が加わった。ディヴェルティスマンでは、太鼓の踊りの牧村直紀、中村慶潤が切れの良い踊りを披露した。

一幕バヤデールたちの踊りは娘らしく、谷桃子の伝統を伝える。ただし、二幕アンサンブルはスタイル獲得の途上、三幕の山下りは、パの正確な遂行と揃えることにのみ意識があり、音楽を感じさせるには至らなかった。また定評ある男性のノーブル・スタイルは、学生が混ざったせいか徹底されず。

『ラ・バヤデール』全幕は現在、新国立劇場バレエ団の牧阿佐美版、Kバレエカンパニーの熊川哲也版、東京バレエ団マカロワ版を見ることができる。その中で、日本初演を誇る谷桃子バレエ団には、メッセレル版の復元を期待したいところだ。髙部監督の望む若い人たちへのアピールは、むしろ監督自身の創作で果たして欲しい。その鋭い音楽性と定型からはみ出る過剰なエネルギーは、振付家 髙部の大きな財産と言える。

 アレクセイ・バクラン指揮、洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団