NBAバレエ団『白鳥の湖』新制作2019

標記公演を見た(3月2日 東京文化会館 大ホール)。芸術監督の久保綋一による新版。2006年に上演されたガリーナ・サムソワ版を基に、久保が演出、宝満直也が振付を担当した。音楽監修は冨田実里(指揮も)、3幕マズルカポルカは、新垣隆チャイコフスキーピアノ曲から新たにオーケストレーションを行なった。

家庭教師、道化、儀典長は登場せず(サムソワ版踏襲)、4幕は間奏曲からすぐにドラマに移行、別れのパ・ド・ドゥも省略という、休憩を含めて2時間15分の短いバージョンながら、ドラマが息づき、舞踊も充実した若々しい新版だった。王妃がパ・ド・トロワを見物する点、3幕のお妃候補たちが3人に絞られ、それぞれがソロを踊る点もサムソワ版に倣う。黒鳥グラン・パ等にブルメイステル版の影響も見られるなか、久保版最大の特徴は、新振付そのものにあった。

1幕乾杯の踊りの後に、ファンファーレが鳴り響き、勇壮な行進曲で、狩りの長率いる男性9人が力強く踊る。さらに3幕スペインを同じ9人がスタイリッシュに踊り、オディールを警護する。3幕 お妃候補たちがお付きのダンサーを従えて踊る、ポルカ、ルースカヤ、マズルカは難度が高く、女性ソリストの見せ所。黒鳥アダージョの複雑なパートナリング(まだこなれていない)、黒鳥の華やかなヴァリエーションも新鮮だった。宝満のクリエイティヴな意志の強さが伝わる版。プティパに対抗するつもりなのだろう(挿入曲についてはプログラムに記載が欲しい)。

演出面ではロットバルトがクローズアップされる。プロローグでロットバルトが恋敵のジークフリードを刺し、愛するオデットを憎しみのあまり絞め殺すスキャンダラスな幕開け。観客を引きつけようとする意図は理解できるが、続く1幕でジークフリードが元気に登場するため、ドラマとしては分かりにくい展開である(転生は暗示されない)。終幕 人間に戻ったロットバルトは倒れ、自死したオデットとジークフリードはあの世で結ばれる。

初日のオデット/オディールには BRB プリンシパルの平田桃子。情熱的なタイプで、オデットではクラシックの美しい形に感情を収めて、抒情性を目指したが、オディールで個性が全開した。アダージョの大きさ、ヴァリエーションの激しさ。エネルギーが飛び散るようだった。宝満の振付を真っ直ぐに踊る献身にも心を動かされた。

対する王子はバレエ団の高橋真之。ノーブル・スタイルよりも素直な感情を重視する演出指導のせいか、1幕ではアンサンブルに埋もれがちになる。しかし3幕では、喜びがそのまま踊りとなって溢れ出す高橋らしいヴァリエーションを披露した。平田同様、真っ直ぐな舞台だった。

ロットバルトは振付の宝満。一人次元の異なる役は得意とするところ。下半身はやや軽めながら、上半身のニュアンスが豊かで、妖しい雰囲気を醸し出した。ベンノ 前沢零の高い技術とクラシカルなスタイル、狩の長 大森康正の鋭く品格ある踊り、マズルカ 竹内碧、ルースカヤ 柳澤綾乃、ポルカ 須谷まきこの覇気あふれる踊り、スペイン軍団の伊達男ぶりなど、踊りの喜びが全編にあふれた。

白鳥群舞はよく揃い、若く素朴な味わい(ゲストバレエミストレス:針山愛美)。男性群舞は活きが良く、女性群舞には娘らしさが漂う。バレエ団の明るくカジュアルな個性と、古典の雰囲気が不思議にマッチしていた。

冨田のエネルギッシュな指揮が、終始舞台を牽引する。バレエ団との相性も良好だった。演奏はロイヤルチェンバーオーケストラ。