佐東利穂子『泉』 2019

標記公演を見た(4月13日 KARAS APPARATUS)。佐東初めての振付作品。計8回のアップデイトダンスのうち、2回目の公演である。カミテ奥には、滝のような、泉が盛り上がったようなインスタレーション。薄暗い照明のなか、佐東がゆっくりと動き始める。

現代的なバイオリン協奏曲(プロコフィエフとのこと)、女声の宗教曲、チャイコフスキーの「感傷的なワルツ」、バッハのバイオリン協奏曲という音楽構成。照明は微妙に変化し、途中、黒い床が水面のように見える。両腕を広げてのぞき込む佐東の姿が、逆さ富士のようなシンメトリーを形成した。概ね、勅使川原三郎の美意識と重なっているが、重なっているからこそ、佐東の個性が浮き彫りになる。

音楽との関係、インスタレーションとの関係が親密で、触覚に基づいている点が、佐東の大きな特徴。一方、勅使川原は視覚的。構成への意志が厳然とあり、コミュニケーションの有無よりも、美的であることを優先させる。佐東はその場で音楽と呼応し、インスタレーションと対話しているように見えた。

振付は勅使川原メソッドを使用。ただし床面を多く使い、肚への意識を感じさせる。バッハの荘厳な曲で踊る高速ダンスは、全身の呼吸を伴い、空間に気を充満させた。勅使川原作品で見せる聖性を保ちながら、一人の人間としての思考、それに由来する強度を感じさせた初振付作だった。

終演後の挨拶では、初めて作品を作る戸惑いと喜びを語る。勅使川原三郎さんや周囲の方にずっと勧められていたが、これまで作らなかったのは、踊りの追求が面白かったから。作り始めて、石ころと思っていたものが、何かになることに驚きを感じた、など。終始、「勅使川原三郎さん」とフルネームで呼んだことに、佐東の来し方を思わされた。