新国立劇場バレエ団 『シンデレラ』 2019

標記公演を見た(4月27, 28, 29日, 5月4, 5日 新国立劇場オペラパレス)。99年団初演、1年半ぶり12回目のアシュトン版『シンデレラ』である。何度見ても尽きない面白さ、発見がある。クリスタル・カットを施された切れの良い主役・ソリスト振付、星の精群舞の幾何学的振付、宮廷群舞の込み入ったキャラクターダンス、さらに同時多発的な演技。アシュトンの古典バレエへの批評が詰まった傑作である。

今回は動きのメリハリを重視する演出に加え、冨田実里指揮、東京フィルによる音楽が、歯切れよくエネルギッシュなため、明るく元気な舞台となった。マーティン・イエーツがメロディに深く分け入り、テンポも緩やかであるのに対し、冨田はダイナミズムを保ちつつ、構造や適正テンポを重視する。舞台と呼応するパトスの表出も陽性だった。

主役キャストは4組。初日の米沢唯と渡邊峻郁は『不思議の国のアリス』と同じ顔合わせ。その時の駆け抜けるような瑞々しさとは打って変わり、今回は落ち着いた大人の雰囲気である。米沢の静かに包み込む座長的な懐の深さに対し、渡邊は真摯で誠実な演技で応えた。来季の『R&J』も同じ組み合わせだが、どのような恋人たちになるだろうか。

二日目の小野絢子と福岡雄大は、長年にわたるパートナーシップが安定した舞台を形作る。小野はアシュトン振付の機微をピンポイントで実現。炉辺での踊りに繊細な音楽性を滲ませた。一方、福岡は絵に描いたような王子だった。自分の個性とノーブルスタイルを見事にすり合わせ、ベテランらしい落ち着きと格調の高さを備えている。時々「ピルエットをしすぎて、頭のネジが2、3本飛んでる」という、小柴富久修(福田紘也?)の福岡評(「Dance to the Future 2019」)が頭に浮かんで困ったが。

三日目は木村優里と井澤駿。来季『R&J』でも組むダイナミックな持ち味の二人だが、パートナーシップを徐々に築いているところか。木村は伸び伸びとした演技で、不遇を感じさせず。2幕アダージョは風格があるが、もう少し王子との対話を聞かせてほしい。一方、井澤は階段に蹴躓くなど立ち上がりが遅く、3幕でようやく本来の姿が顕現した。虚構度の高さという点で、団先輩の山本隆之と似たところがある。「王子がそこにいる」のである。

四日目の池田理沙子と奥村康祐は、確かなパートナーシップを築いている。池田の役にはまり込む真っ直ぐな姿勢と、奥村の優しさ、作品への理解が噛み合い、胸を打つ2幕アダージョを作り上げた。心のこもった舞台。唯一、役に沿った感情の流れを感じさせた。二人の芝居心と個性は、『R&J』よりも『マノン』を思わせる。

もう一方の主役、義理の姉妹たちは、姉が持ち役の古川和則が帰還。細かい反応をそこここに差し挟んで、舞台を牽引する。妹想い。加えて自らをも俯瞰する眼差しが、ユーモアともつかぬ妙なおかしみを生む。音楽的な妹 小野寺雄が古川の愛情によく応えた。また奥村が、王子配役日を挟んで、姉娘の初役。華があり、王子同様ビロビロと広がるオーラをまき散らした。妹はすでにベテラン臭のある髙橋一輝。かつての姉 古川同様、芝居が細かく、また悲しげな無表情が愛らしい。

仙女は盤石の配役。本島美和は体の質を変え、仙女そのものと化している。一挙手一投足から滲み出る慈愛。幽玄だった。細田千晶は踊りも滑らかになり、柔らかい包容力が一段と増している。木村は大きくダイナミックな踊りで妖精たちを導いた。

道化も同じ。福田圭吾は暖かく王子に寄り添う献身派、木下嘉人はエスプリを利かせた爽やかタイプだった。共に脚技を駆使した鮮やかな踊りで、観客を楽しませた。父親の菅野英男は奥行きある深い愛情、貝川鐡夫は人情味あふれる優しさで、娘たちを見守った。

四季の精、王子の友人ともレヴェルが高い。中でも五月女遥(春)、奥田花純(秋)、寺田亜沙子(冬)、友人の中家正博、速水渉悟が印象的。速水はアシュトン振付を面白がる余裕がある。1幕職人たち、2幕ウェリントン=ナポレオンは各自に任されている模様。ナポレオン初役の渡部義紀も馴染んでいた。カツラの向きはどれが正しいのか。