8月に見た振付家2019

伊藤範子 @ 「谷桃子バレエ団附属アカデミー 第59回生徒発表会」(8月7日 大田区民ホール・アプリコ大ホール)

高等科9人の女性に振り付けた『Gosh! win for the future』。ガーシュインの気怠さ、アメリカ的なテンポの良さが、振付に反映されている。音楽、フォーメイション、動きのアクセントが緊密に結びつき、それが小粋でエレガントなスタイルによって実行される。そのピンポイントの心地よさ。クリエイティヴなソロ、華やかなフィナーレあり。プティの破天荒ではなく、アシュトンの手仕事風細やかさを想起させる。グレー、赤、黄のドレスにチョーカー、腕飾りと、いつもながら洒落た衣裳。

 

児玉北斗福田圭吾宝満直也(上演順)@ 「大和シティバレエ夏季公演2019」(8月16日 大和市文化創造拠点 シリウス芸術文化ホール メインホール)

5演目全てが創作、うち3演目がコンテンポラリーという攻めのプログラムである(ゲネプロ所見)。出演者も、新国立劇場バレエ団、東京バレエ団、スターダンサーズバレエ団、NBAバレエ団等から、主役・ソリスト級が参加。佐々木三夏バレエアカデミー出身の五月女遥、相原舞、菅井円加、大谷遥陽、松井学郎も、主要な役を踊る。新進振付家の起用および、ダンサーの適材適所は、この公演の大きな特徴である。その結果、国内でも貴重な創作の場が形成されている。

児玉北斗の『Pas Syntaxique』は、リュリ、テレマン、ヴィヴァルディの音楽に振り付けた批評的コンテンポラリー・ダンスルイ14世をモチーフに、美しいポジションとカジュアルな運動性が組み合わされる。ポーズと動きの絶妙なタイミング、音取りの巧さは天性のもの。そのまま普通に作品を作ってもいいように思うが、どうしても捻り(批評)を入れたいのだろう。「王」を示すマイムと、「コマネチ」を組み合わせてしまう。一筋縄ではいかない児玉らしい作品だった。元ノイズムの梶田留以が、その名の通り、男前の踊りを見せる(福田圭吾をサポートしたり)。また、元新国立の八幡顕光が優れた音楽性を発揮した。

福田圭吾の『accordance』は、風や鳥の声が入る音楽で始まり、自然に寄り添う姿勢を見せる。集団フォルムでのウェーブやカノンという、モダンダンスに通じる親密な空間も、「調和」を求めてのことだろう。福田の暖かい人間性と呼応した新境地だった。最後は、踊りの快感、スタイリッシュな動きのショーアップというお家芸が炸裂する。新国立の米沢唯と木下嘉人、五月女と福岡雄大、相原と福田が時々パートナーを変えながら、デュエット、ソロで高い技量を見せた。

宝満直也は『球とピンとボクら…。』(13年)の系譜に連なる『MU』と、バランシン風の『Four to Four』。前者はショパンの遺作が、バイオリン・ソロおよび、ピアノ変奏で流れ、空間の歪みを作る。男(山本勝利)がベッドで寝ていると、マットレスから一本の脚がにょきっと出て、指でメロディを奏でる。次には片手がふらふらと伸び、狐手を作る。最後は頭、そして全身が出てくると、男は驚いて「ワーッ」と叫ぶ。狐女(大谷)はしっとりした色気を醸しつつ、男をいたぶったり、からかったり。成行き上、二人はパ・ド・ドゥを踊るが、宝満振付デュオ『Disconnect』(16年)に通じる孤独を感じさせた。最後は狐女がシーツもろとも、マットレスの中へ戻って終わる。奇妙なイメージを膨らませる想像力、音楽と物語の一致、ダンサー起用の妙は相変わらず(山本の素朴な味)。動物ものに地力を発揮する宝満。

後者は、五月女と木下、相原と奥村康祐、米沢と秋元康臣、菅井と福岡が、各楽章のプリンシパルを担う。絶妙な組み合わせ。そこにソリスト、アンサンブルがピラミッドを形成し、フィナーレのユニゾンへとなだれ込む。フォーメイションはまだ作り込める印象だったが、アカデミー生が最前線のプロと共演する意味は大きい。闊達な1楽章、『白鳥の湖』風2楽章、3楽章は米沢讃歌。秋元の安定したサポートを得た米沢は、振付の源へと遡る深い解釈を見せた。よく踊り、よく回り、よく跳ぶ4楽章は、ゲネのため、菅井と福岡の丁々発止は手話のごとく。本番では火花を散らしたことだろう。

児玉作品と福田作品の間に、マルティネスの『ドリーブ組曲』。大胆跳躍の菅井とノーブルな松井が踊った。