10月に見た公演2019

NBAバレエ団『海賊』(10月20日 東京文化会館 大ホール)

久保綋一演出・振付、宝満直也振付。バイロン原作に寄り添い、新垣隆のオリジナル曲を大幅に採用した独自の改訂版である。コンラッドとメドーラの夫婦愛、ギュリナーレの悲恋、『ライモンダ』を思わせるキリスト教イスラムの図式が特徴。さらに、通常立ち役のサイードを踊る役に変えて、コンラッドと対決する第二の主役に。「活ける花園」のアダージョも、サイードと嫌がるメドーラに踊らせている。

初演時よりも物語の流れがスムーズになり、男性ダンサーの超絶技巧を含む溌溂とした踊り、女性ダンサーの優雅で情感豊かな踊りが、古典バレエの味わいを伝える(バレエマスター:鈴木正彦、バレエミストレス:浅井杏里、関口祐美)。何よりも、ダンサーが生き生きと踊れる「場」を作り出した 久保芸術監督の功績は大きい。他団から移籍したばかりの男性ダンサーが、嬉しそうに踊っていたのが印象的。指揮はバレエ団と相性の良い冨田実里、演奏はロイヤルチェンバーオーケストラによる。

 

東京バレエ団「勅使川原/ベジャール/バランシン」(10月26日 東京文化会館 大ホール)

バランシンの『セレナーデ』、勅使川原三郎の新作『雲のなごり』、ベジャールの『春の祭典』によるトリプル・ビル。海外公演を見据えてのプログラムだろう。

勅使川原三郎の新作は、武満徹の2曲―雅楽風の「地平線のドーリア」、マーブル紙のように音が渦巻く「ノスタルジア」―を用いて、上質のオリエンタリズムを生み出した。三方を囲む白いスクリーンは、障子灯り、夕陽、闇、青い一筋の光線によって様々に彩られる。勅使川原の透徹した美学の結晶だった。

ダンサー7人は、三方の壁がまるで修道院の回廊であるかのように、佇み、ゆっくりと壁際を歩く。その静けさ。冒頭で佐東利穂子と対の踊りを演じた沖香菜子が、神に奉仕する巫女のような清らかさを纏っていた。勅使川原のメソッドを習得し、さらに解釈を加えたかに見える。終幕は、直前上演の『セレナーデ』を模した男女3人のフォルムで終わった。バレエ団を意識したのか、意外な幕引きだった。レパートリー化に際しては、所属ダンサーのみの座組で、男女デュオを見てみたい。

バランシンの『セレナーデ』については、よく揃っているが、音楽を聴かせるには至らず。スターダンサーズ・バレエ団のバランシン・メソッドと生々しさ、牧阿佐美バレヱ団の音楽性、新国立劇場バレエ団の統一されたスタイル、といったバレエ団の個性も、本家NYCBやマリインスキー・バレエへの志向も見えてこない。一部ソリストのアプローチにも、疑問が残った。

ベジャールの『春の祭典』を見た直近は、17年。斎藤友佳理芸術監督になって初めての、隅々まで血の通った『春祭』だった。伝田陽美の生贄デビューも鮮烈。今回はやや落ち着いて、3作の中で最も馴染んだ作品、舞踊技法という印象だった。チャイコフスキー、武満、ストラヴィンスキーの3作とも、指揮はベンジャミン・ポープ、演奏は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団による。