12月に見た公演 2018

2018年12月に見た公演について短くメモする。


勅使川原三郎月に憑かれたピエロ』(12月1日 東京芸術劇場 プレイハウス)
月に憑かれたピエロ』は「ラ・フォル・ジュルネ」(11年)で見ている。今回は勅使川原らしい水際立った美術と照明が加わり、ダンサー勅使川原の新たな境地も窺える完成作だった。クシャクシャのアルミ箔が敷き詰められた床に、出入り可能なアルミ箔カーテン。そこにシェーンベルクとアルベール・ジローの詩に呼応した、千変万化する照明が当てられる。夜景のような、青い海のような、野火のような、赤富士のような。勅使川原の美術家としての才能が遺憾なく発揮されている。
驚いたのは、勅使川原の踊りが世界を穿ち、関わり、飛び出している点。痙攣、硬直、クエクエ踊り、中腰の全てが生きている。自らの身体メソッドをそのまま使う場合は、手の内に収まり、外界と関わることが少ないが、今回は詩の内容を反映したマイムに近い振付のため、メソッドに流れず、勅使川原の肉体が露わになっている。共演の佐藤利穂子とも直に抱き合い、普通にサポートもする。詩の中のピエロとコロンビーヌに見えた。いつもは自動的に繰り返されるカーテンコールも自発的。勅使川原の体には喜びがあった。歌のマリアンヌ・スプール、指揮のハイメ・ウォルフソン、演奏者を含め、音楽的にも充実している。同時上演はベルクの音楽で『ロスト・イン・ダンス―抒情組曲―』。


●バレエ団ピッコロ『Letter from the sky―愛しのメアリー―』(12月2日 練馬文化センター 大ホール)
題名は異なるが、レパートリーの『Mary Poppins』と同じ作品。松崎すみ子ワールドが炸裂する。同名ミュージカルの映画音楽(ジュリー・アンドリュースの声!)も貢献大ながら、何よりも、松崎の物語喚起力、音楽的振付、世界を肯定する力、子どもたちへの愛が、作品を形成する。大人へは難度の高い踊り、子どもたちへは音楽に乗って踊る喜びが与えられる。街の子、煙突掃除の子、妖精、ペンギンなど。「不思議なひと」のキャラクター色豊かな踊りは、松崎振付の魅力の一つである。
メアリーが空に帰っていく終幕では涙が出た。メアリーになり切った下村由理恵の力だろう。バートの橋本直樹は、エネルギッシュな踊りと子どもたちへの優しさ、不思議なひとの小出顕太郎は熱い献身性、またバンクス夫妻の小原孝司・菊沢和子、銀行頭取の堀登を始め、常連助演者による的確で真摯な演技が、善きことが行われる世界を子どもたちの眼前に出現させている。
同時上演は松崎えり振付『エス』。黒一点の小出と女性6人に振り付けられている。時間構成、空間構成とも骨太。振付は自身の体から生まれ出て自然。小出の、振付をよく汲み取ったニュアンスあふれる踊りが素晴しい。右腕を上げるだけで、感情・思考が伝わってくる。女性6人も振付と真っ直ぐに向き合っているが、まだおとなしい。バレエ団から松崎(え)とバトルするダンサーが育つことを期待する。


●Kバレエカンパニー『くるみ割り人形』(12月7日 Bunkamuraオーチャードホール
2018年11月、カンパニーはBunkamuraオーチャードホールフランチャイズ契約を結んだ。熊川哲也はすでにオーチャードホールの芸術監督でもある。ホームになった劇場での13年振りの『くるみ』は、ソナベントの美術を復刻、10年ぶりの生演奏上演(井田勝大指揮、シアターオーケストラトーキョー)となった。熊川版はホフマン原作を取り入れ、複雑な粗筋を持つ。当初は分かりにくい個所も見受けられたが、再演を重ねた今回は、音楽・ドラマ・振付が完全に一致し、感情の流れが途切れることがない。熊川自身が生き抜くように演出しているからだろう。伝統の音楽的で清潔なスタイルは、子どもたち(Kバレエスクール)にも及ぶ。個々のダンサーの技量に加え、自然な演技の浸透が作品の完成度を高めていた。ソナベントの壮大で魔術的な美術は、オペラ劇場にふさわしい。
ドロッセルマイヤー 宮尾俊太郎の暖かくノーブルな大きさ、マリー姫 小林美奈の健康的で明るいオーラ、くるみ割り人形/王子 山本雅也の切れの良い踊りと大らかでノーブルな佇まい、クララ 河合有里子の感情豊かな演技と清潔な踊りが、互角に組み合わさった充実の舞台。ドロッセルマイヤーがこれほど物語に溶け込む演出も珍しい。魔法が本当にリアルに見える。初演者のキャシディはシュタールバウム氏で出演していたが、家長としての包容力、ホストとしての気配りが素晴しかった。一幕を牽引している。


●スターダンサーズ・バレエ団『くるみ割り人形』(12月8日夕 テアトロジーリオショウワ)
鈴木稔版の特徴は、ドイツの一般家庭に起こる物語である点と、一、二幕を通して人形の世界が舞台になる点にある(ただし自動人形の踊りはない)。一幕クリスマス市にやってきた人形劇の小屋にクララが入り込み、舞台裏でのネズミと人形の戦争に参戦、王子や人形たちを助ける。二幕は彼らと共にドールハウス仕立ての人形の国に赴き、王子と結婚かと思われたが、家族を思い出して元の広場に戻り、家族と合流する(ほんの一瞬の出来事だったのだろうか)。鈴木印のコンテンポラリーを踊る雪ん子が、バレエ団の音楽性を象徴する。一幕の芝居をもう少しゆったりして欲しいことと、コンテの振付が徐々に増えることを期待。
主役のクララは初役の塩谷綾菜。思春期の少女にふさわしい可愛らしさ、癖のない清潔な踊り、確かな技術が揃った、堂々たる本公演主役デビューだった。今後バレエ団のレパートリーをどのように踊っていくのか、見守りたい。王子には郄屋遼。硬質で美しい踊りが、師の小嶋直也を想起させる。王子の典型とは必ずしも言えないが、塩谷をよくサポートし、舞台を盛り上げた。田中良和指揮、テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ+ゆりがおか児童合唱団。