東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』2020

標記公演を見た(2月16日 ティアラこうとう 大ホール)。都民芸術フェスティバル参加公演。同団の『眠れる森の美女』先行版としては、有馬五郎版が、1968年の創立から10年間上演されている(プログラム)。その後レパートリーから外れ、バレエ団は3大バレエの一角を欠く状態が続いた。このため『眠り』上演は、2009年に就任した安達悦子芸術監督の悲願となる。昨春、全幕への布石として抜粋版を上演。プティパ初演から130周年の今年、ようやく42年ぶりの新制作を迎えるに至った。

構成・振付は安達、振付指導 ラリッサ・レジュニナ、演出 中島伸欣、編曲 井田勝大、美術 穴吹喬、照明 足立恒、衣裳 小栗菜代子という布陣。

K・セルゲーエフ版を土台に、細部に手を加え、物語の流れを細やかに演出する。王子はカラボスと剣で戦わず、本来の姿に近づけた。舞台の規模に合わせて、群舞フォーメーションに変更があるが、上演劇場が変わる際には、美術と衣裳のコンセプト一致を含め、改訂が予想される。

新振付は2幕貴族の歴史舞踊など。安達の振付は、昨秋の『ロメオとジュリエット』(音楽:ベルリオーズ)で見ている。古典の品格、透明感、愛らしさが印象的だったが、今回の『眠り』も、同様の特徴を備えている。オーロラ姫の愛らしい造形、リラの精の透明感あふれる気品、妖精たちの晴れやかな祝福の踊り。安達の思い描く古典の理想が、全編に行き渡っている。プロローグのグラン・アダージョがその象徴。妖精6人は、優美なポール・ド・ブラ、背中を使う柔らかな上体、ポアント音のしない繊細な脚捌きを実現。クラシックの規範と役どころを緊密に結び付けている。3幕ディヴェルティスマンでは、クラシカルな宝石の精たちに加え、芸達者が揃うキャラクテールの軽妙な踊りに、お伽話の楽しさが横溢した。

主役はWキャスト。オーロラ姫初日は中森理恵、二日目は斎藤ジュン、デジレ王子はそれぞれキム・セジョンと福田建太。その二日目を見た。

斎藤と福田は安達版『R&J』でも組んでいる。斎藤は可愛らしさ、伸びやかさ、福田はノーブルな夢見る雰囲気を醸し出し、初々しいパートナーシップを披露した。福田は終盤にグランド・リフトのある長尺のパ・ド・ドゥにもよく耐えて、主役の気概を示している。

斎藤のオーロラは、今回も愛らしい個性を生かした造形。1幕はやや緊張が見られたが、2幕幻影の場では可憐でしっとりとした情感を見せる。ジゼル・ダンサーなのだろう。3幕パ・ド・ドゥも柔らかく踊り、福田と共にフレッシュな舞台を作り上げた。

やんちゃ系と思われていた福田は、ロミオでノーブルなスタイルに挑戦し、成果を上げている。今回も、森の場面では若さが出たものの、3幕パ・ド・ドゥでは、確かな技術に加え、ノーブル・スタイルを身につけた若き王子となった。無意識の大きさ、気張りのない素直さが美点と言える。

リラの精は平田沙織(初日 岡博美)。美しさ、気品、優しさにあふれ、ラインや佇まいで周囲を祝福できるはまり役だった。対するカラボスには、石黒善大。大きさがあり、マイムも丁寧にこなしているが、死の予言をするには、人の好さが邪魔する印象。もう少し厳しさが望まれる。

フロリナ姫の飯塚絵莉、青い鳥の吉留諒(共にWC)を始め、5人の妖精たち(春風まこ、渡邉優、大内麻莉、新里茉利絵、且股治奈)、宝石の精たち(石井日奈子、以下WC島田梨帆、且股、三好梨生)の引き締まった古典舞踊、新里、玉浦誠による闊達なファランドール、猫の庄田絢香、岡田晃明(共にWC)、赤ずきんと狼の宮井茉名、濱本泰然の物語性、国王、王妃、カタラビュットのベテラン立ち役(青田しげる、若林美和、浅井永希)、4人の王子(キム・ボヨン、内村和真、濱本、吉留)のノーブルスタイルなど、適所に配された若手とベテランが一体となった安達版初演だった。

指揮は若手の熊倉優。シアターオーケストラトーキョーから、実質的で厚みのある音を引き出している。金管の咆哮、優れたヴァイオリン・ソロに、『眠り』の魅力が炸裂した。熊倉はNHK交響楽団のアシスタントを3年間務め、今年度都民芸術フェスティバルのN響公演でも指揮を担当する。