山崎広太@「ダンステレポーテーション」展 2020

標記展オープニングトーク&パフォーマンスを見た(8月6日  Dance Base Yokohama)。本展は、山崎広太と11人のダンサーによる 言葉と映像を媒体にしたダンス展である(8月7日~9月13日)。5月に Dance Base Yokohama(DaBY)のオープニングイベントとして企画された 都市徘徊型ダンス『都市のなかの身体遊園地』が原型。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、中止を余儀なくされ、新たな表現形式を採ることとなった。

まず山崎がダンサーにオンライン・インタビューをする(テキスト編集:吉田拓)。これを基に、山崎が個々のダンサーへの言葉を綴り、ダンサーたちはその言葉を道標に、映像・写真を使って創作する。当初 発表は予定されていなかったが、「自分への高い意識があり、身体感覚の強い作品が揃ったため、2週間という短い準備期間だったが、展覧会開催を決めた」とのこと(企画・総合ディレクター 唐津絵理)。

展示は DaBY(北仲ブリック&ホワイト BRICK NORTH 3F)の回廊部分と入口前、同じ建物の1F、別棟 BRICK SOUTH の1Fで行われる。これらの建物は、旧横浜生糸検査所附属専用倉庫を復元したもので、煉瓦と白壁の美しいコントラストが特徴。横浜赤レンガ倉庫と同様、ガラス張りの床から遺構が見えるようになっており、北建物を貫く白い4本の巨大柱の台座が確認できる。神楽坂 die pratze や Bank ART Studio NYK が失われた今、柱のある貴重な創造的空間と言える。

オープニングトークの観客は特別に、設置半ばの展示を見ることができた。山崎の言葉が展示物の傍に掲げられている。その言葉を読んだ上で、ダンサーの創った映像や写真を見る。振付(言葉)がいかに消化され、発展しているかを味わう、言わばコミュニケーションのプロセスを楽しむ展覧会である。長い会期は、作品の建築への馴化を促すだろう。 DaBY の基幹コンセプトである「つくる(Create)」、「そだてる(Nurture)」、「あつまる(Gather)」、「むすぶ(Connect)」を体現する企画である。

オープニングトークの前に、山崎のソロ・パフォーマンスがあった。オンラインで話してきたダンサーたちと初めて会った感想(昔好きだった女の子に、今会って感じる現実)を語り、久しぶりに踊るのと、彼らの前なので、恥ずかしい気もするが、と言いおいて踊り始めた。ハンバーガー屋のTシャツにグレーのジャージズボンは、いつものランニング・スタイルなのだろう。

客席に正対し、約2mを前進しては後退する走り。ミニマルな音楽をバックに、軽快なステップで、様々な上体ムーヴメントを変奏する。両手を腹に囲って気を溜めたり、盆踊りのように腕を振り上げたり。だが山崎の体から逸脱する動きは一つもない。全て体と一致している。その不思議。型に入りながら、常に型から逃れる瞬時の思考がある。途中、男女の発話をバックに床を使う場面では、日本舞踊のニュアンスを感じさせた。最後はロマンティックな弦楽で舞踏の体に。背中から踵にかけての鮮烈なフォルム。かつての濃厚さ、野蛮さはなく、すっきりと透明である。慎ましやかで、枯淡に傾いている。以前「60歳の山崎を見たい」と書いたが、まさに目の前に。自己表現ではなく、犠牲、供物としての体、消費されない体だった。マスクをしての30分。

オープニングトークは、カミテから DaBY 芸術監督の唐津絵理、振付・ディレクターの山崎、中央奥に制作コーディネーターでファシリテーターの吉田拓、シモテに向かい、ダンサーの小暮香帆、木原萌花、望月寛斗、金子愛帆(1列目)、横山千穂、幅田彩加、久保田舞(2列目)、という布陣だった。まず、唐津のダンスハウスとしての DaBY への思い(プロのダンサーを養成、クリエーションの場、街の中に出ていく)が語られ、山崎がクリエーションの経緯を説明。ボディを通してのみ、人と分かち合える、ダンサーたちのセンスのよさ(エコロジーへの視線)、舞台だとその場で終わるが、この形式だとずっと繋がって、発展していく感じ、新しいアートの予感など。続いて、山崎から貰った言葉をどう思ったか、ダンサー一人一人が語った。ファシリテーターの吉田が、各人の作品を大画面に映しながら、質問を加え、ダンサーの意図を鮮明にする。

さらに、山崎の「自分はムーヴメント至上主義、ムーブメントにロマンを感じるが、メディウムを通すと、多様になり、客観的に伝えることができる」との言葉を受けて、「メディアを使うことで新たな発見があったか」との質問。ダンサーたちは語る言葉でも、それぞれの個性を発揮した。1時間に及ぶダンサートークを実りあるものとした 吉田の批評性とダンサー(ダンス)への愛情が印象深い。社会を鋭い視線で見つめながら、発する言葉の社会化を拒む山崎と、ダンサーたちとの橋渡しを、黒子となって務めた。

 山崎の言葉を受けた幸運なダンサーは、岩渕貞太、小暮香帆、小野彩加、金子愛帆、木原萌花、久保田舞、栗朱音、ながやこうた、幅田彩加、望月寛斗、横山千穂。以下のサイトに、各人への山崎インタビューが掲載されている。

 https://dancebase.yokohama/event_post/dance-teleportation