アキコ・カンダダンスカンパニー『花を咲かせるために~バルバラを踊る』他2021

標記公演を見た(5月15日 東京芸術劇場 シアターウエスト)。アキコ・カンダ没後10年メモリアル公演である。カンパニーは師亡き後も、レパートリーを護り、新人を育成してきた。昨年はコロナ禍のため公演中止に。今年は密を避けるということもあり、6人の精鋭ダンサーが師への想いを踊りで綴った。

グラハム・メソッドを基盤とするアキコの創作は、優れた音楽性、構成美、華やかで深い情感を特徴とする。モダンダンスの受容を考える上で貴重な存在であると同時に、ヨガの影響を受けたグラハム・メソッドのクリエイティブな可能性を開示し続けている(オハッド・ナハリンの GAGA 同様、踊ることと健康が一致する希少な舞台舞踊メソッドである)。

Part1は、アキコ振付『マラゲーニャ』(08年)と、市川紅美新作『陽だまりのなかで』の師弟作品。レクォーナの音楽に振り付けられた前者は、グラハム・メソッドとフラメンコのニュアンスを融合させた スペイン色濃厚な作品である。ギターとカスタネットに導かれ、赤レオタードとスカートを纏った市川、粕谷理恵、田口恵理子、重野美和子、岩崎由美、岩田有記が、スタイリッシュに踊る。メソッド由来の 両手を胸元からスパイラルに上昇させる動き(内向き、外向きあり)、両腕を螺旋状に腹に巻き付ける動きに、フラメンコ風足踏みが加わり、禁欲的な情熱が迸る。

一方、ブラームスクラリネット三重奏に振り付けられた市川の新作は、音楽に即応するシンフォニック・ダンス。水色長袖ワンピースに透明レースのスリップドレスを重ねた市川、粕谷、田口、重野、岩崎が、音楽に乗って爽快に踊る。同じメソッド使用ながら、アキコよりも正面性が強く、ステップが細かい。内輪の脚から独特の溜めが作られ、東洋的なニュアンスが濃厚に立ち上った。

Part2は、アキコの代表作『花を咲かせるために~バルバラを踊る』(80年)。今回は「没後10年のメモリアル公演として構成を変え、カンパニーの新たな作品として上演」された(プログラムより、新構成・振付:市川紅美)。バルバラのパセティックな歌声に乗り、美しいドレスに身を包んだダンサーたちの総踊り、ソロが流れるように構成される。それぞれの個性に沿った振付が素晴らしい。出演順に、粕谷の全身からあふれる情感と美しい腕遣い、岩崎のウィットの富んだ可愛らしさとスパイラル腕の妙味、重野の毅然としたライン美とスカートを大きくあおるパッション、若手 岩田のダイナミックな力強さとゴムのような弾力、田口の求心的なストイシズムと的確な踊り、そして市川のゴージャスな佇まい。Part1では体が作品に追いついていない所も見受けられたが、本作では師への想いに突き動かされるように、作品と一体化している。濃厚な動きのニュアンス、丹田から発する強いエネルギー、毅然とした凛々しさ。アキコの振付と共に生きてきた人生が、そのままフォルムとなって表れる。市川を中心に、手前に粕谷、奥に岩田というフォーメーションが、カンパニーの連綿たる時の流れを視覚化した。

なぜスパイラル腕に感動するのか。踊る側の充足と見る側の充足がこれ程一致する舞台は他にはない。ディアナに忠心を捧げるニンフたちのような宗教的禁欲性も、カンパニーの独自色を強めている。