バレエシャンブルウエスト『ジゼル』+『In The Light』2021

標記公演を見た(5月22日夜 J:COM ホール 八王子)。主演目『ジゼル』に先立って、平田友子振付の新作『In The Light』が上演された。古典と創作を等しく重んじる 同団らしいプログラムと言える。副題は「見えないけれど此処にある光」。シューマンのピアノ協奏曲イ短調第1楽章を使用したモダンダンスである。冒頭 無音のまま、染谷野委と土田明日香がアダムとイブのように佇む。音楽が始まると、女性アンサンブルが縦一列に現れる。2人が流れ出て床を使う動き、残るアンサンブルは円を描くカノン。バレエによくある 音に付ける振付ではなく、曲想につけているため、カノンが緩やかになり、個々の想いが動きにこもる。新鮮だった。

吉本真由美と土方一生の愛情深いパ・ド・ドゥ(グラン・リフトあり)に、男女3組が加わり、ダイナミックなユニゾンへ。続いてベテラン吉本泰久のソロ。フォルムに情感がこもり、成熟した男性の色気を感じさせる。16人全員が後ろ向きに立つ景色から、川口まりがふわりと現れ、振付を掌握した繊細な動きで、音楽の聞こえるソロを踊る。吉本にリフトされると濃厚なドラマの片鱗が見えた。最後は全員 横一列となり、客席上方を見つめて終りとなった。平田は作品を仕上げることよりも、作品を作る過程を重視しているように思われる。ダンサーたちは平田の意図(自分と向き合う)をよく理解し、自分の動きを追求していた。モダンのよさが生かされたコラボレーションだった。

『ジゼル』の演出・改訂振付は今村博明・川口ゆり子による。今回改めて磨き抜かれた演出であることを実感した。登場人物の一挙手一投足に至るまで細かい演技が付けられ、しかもそれがダンサーたちの肚に入っているため、水のように滑らかに舞台は進んでいく。マイムも音楽性、様式性を超えて自然な演技に昇華。英国系ともフランス系とも異なる、日本人の体を通して出てくるマイムだった。ロマンティック・バレエゆえ、踊りと演技の継ぎ目がないのは当然だが、これほど段取りを微塵も感じさせない演出は珍しい。

ジゼルは、ベテラン川口ゆり子、若手の柴田実樹によるWキャスト。残念ながら川口が体調不良のため降板し、初役の柴田が昼夜を務めた。それに伴い、アルブレヒトも江本拓、芳賀望のWから、芳賀のシングルに変更された。柴田は同日2回目とは思えないしっかりとした舞台。華やかな容姿に伸びやかなラインを生かし、真っ直ぐにジゼルを演じている。特に狂乱の場と2幕では豊かな感情の発露が見られた。演技の方向性も的確で、ドラマティックな資質を窺わせる。

アルブレヒトの芳賀は、以前よりもノーブルな踊りと立ち居振る舞いだった。「楽しくやろうよ」のモットーは相変わらずだろうか。舞台に立つだけで空気を変える、狂気と接するような生々しさがある。2幕アントルシャは同日2回目にもかかわらず、果てしなく続いた。全てを投げ打つ舞台人の生そのものだった。カーテンコールでの柴田を見守る暖かい視線も芳賀らしい。

ヒラリオン 正木亮の熱く抑制されたマイム、正木と親しく交わるベルタ 延本裕子の自然体演技が素晴らしい。ジゼル友人、村の若者たちの闊達素朴な演技に、深沢祥子の美しいバティルド姫、逸見智彦のノーブルなクールランド公爵、宮本祐宜の忠実なウィルフリード、狩の貴族連が、重厚な演技で対抗。ペザント pdd の松村里沙、藤島光太の切れの良い踊りも1幕を盛り上げた(バックで踊る村井鼓古蕗、土方の音楽性も印象深い)。

ミルタには若手の伊藤可南。絹のように滑らかなパ・ド・ブレが美しい。凛とした佇まいに大きさもあり、はまり役だった。モイナ 山田美友、ズルメ 斉藤菜々美が牽引するウィリたちは、音楽性、様式性とも揃い、幽玄の世界を描き出す。同じスクールから生まれたアンサンブルの美点を、遺憾なく発揮した。

指揮は磯部省吾、管弦楽大阪交響楽団。フルオーケストラの分厚い響きが、場内に充満し、慎ましやかな舞台を大きく支えている。