東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』2021

標記公演を見た(7月18日 ティアラこうとう 大ホール)。バレエ団の主要なレパートリーである石田種生版『白鳥の湖』は、セルゲーエフ版、ブルメイステル版を参考にしつつ、4幕の石庭にヒントを得た独自のフォーメーションで、日本的美意識を主張する。また全編に及ぶクールで研ぎ澄まされた様式性は、石田の古典解釈の一端を示すものだった。現在 演出を担当する金井利久は、石田のドラマトゥルギー重視を継承しながら、人間的な温かみを作品に導入した。登場人物のその場で起こる生き生きとした感情が、名作古典を彩る。男性ダンサーのノーブルスタイルは団の伝統だが、これにも柔らかさが加わり、女性ダンサー(1幕)はより細やかな踊りを見せるようになった。ポアント音の無さ、繊細な足技、上体の柔らかな表現は、安達悦子監督の指導の賜物だろう。定評の白鳥群舞は若手が多く、熟成の途上にあるが、感情面への指導がよく伝わってくる。3幕の民族舞踊はダイナミック(指導:小林春恵)。ベテラン・若手ダンサーが一丸となって熱血指導に応えている。

主役はWキャスト。初日のオデット=オディールは清水愛恵、二日目はオデットに中森理恵、オディールに飯塚絵莉(当初配役の佐合萌香は怪我で降板)、ジークフリード王子にはそれぞれキム・セジョン、福田建太が配された。その二日目を見た。

オデットの中森はすでに『白鳥』全幕を経験済みだが、1月のショルツ・セレクション『Air!』で佐合とWアダージョを踊り、今回の配役となったようだ。中森の美しく伸びやかなラインは健在。持ち味の明るい華やかさは、王女としての毅然とした佇まいに取って代わり、引き締まったバレエ・ブランを作り上げた。王子が若手ということもあり、感情のやりとりが見えにくかったのは残念だが、よく考えられたオデット造形だった。対する飯塚は、落語バレエ『鶴の池』、「ニッセイ名作シリーズ2021」ですでにオディールを踊っているとのこと。華やかで求心的な踊り、鮮やかなライン、切れ味鋭いフォルムで、一気に王子を誘惑する。フェッテもダイナミックで情熱的。陽性のはじけるオディールだった。

対する福田は設定通りの若い王子。1幕の立ち居振る舞い、2幕のサポートはまだ慣れていないが、3幕では飯塚オディールにあおられて、持ち前の輝かしい踊りが出現した。ヴァリエーションでの恋の喜び、コーダでの躍動感あふれる踊り合いが舞台を熱くさせる。体温の高そうな王子だった。道化の岡田晃明は、若い王子に献身的に仕える。規範に則った正確で美しい踊りも、あくまで役の踊り。舞台を愛情深く取りまとめている。王子を陥れるロートバルトには妖しい雰囲気の内村和真、貫禄の王妃には若生加世子、ヴォルフガングには受けの芝居に秀でる青田しげるが配された。

1幕パ・ド・トロワは、松本佳織、斉藤ジュンの高レヴェルの競い合いに、沖田貴士のダイナミックな大きさが加わり、華やかな場面となった。初日トロワの平田沙織、上田穂乃香は、三羽の白鳥、スペインで、美しいラインを披露。同じく三羽の且股治奈は、踊りのダイナミズムで先輩に伍している。スペインの濱本泰然は はまり役。踊りの美しさ、大きさにさらに磨きが掛かった。

指揮は井田勝大、演奏は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。グラン・アダージョはややダンサーを見過ぎるきらいもあったが、骨格の大きいシティ・フィルを駆使し、躍動感あふれる音楽で舞台を牽引した。