日本バレエ協会「バレエクレアシオン」2021

標記公演を見た(11月13日 メルパルクホール)。文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環である。松崎えり振付『sinine』(25分)、福田圭吾振付『The Overview Effect』(35分)、島地保武振付『思いの果てにある風景』(45分)というプログラム。松崎はキリアン系自然派の動き+即興、福田はバレエベースの完全振付、島地はフォーサイス系原始派の動き+即興と、個性あふれる振付家が揃う充実のプログラムだった。

松崎作品はキム・セジョンを中心に、坂田尚也、赤池悠希の男女デュオ、1人の男性、15人の女性アンサンブルが様々な場を形成。これまで少人数作品しか見てこなかったので、アンサンブルの振付に驚かされた。呼吸を伴う柔らかい動き、互いの気配を感じとる体を、ダンサーたちが嬉々として実践。自分の身体感覚を大切にするコミュニティが形成されている。ミルズ・ブラザーズで踊るピナ・バウシュ風ラインダンスの音楽的振付が素晴らしかった。

リヒター、ペルト等の音楽と無音を組み合わせた音楽構成、ダンサーの出入り、フォーメーションを駆使した空間構成は、松崎の肌感覚と直観的な空間把握に基づいている。呼吸をするようにその自然な流れを見ることができた。鏡にもオブジェにもなる机は空間を規定、白いバランスボール、本は空間を切断するアクセントたり得ている。ただし後半、キムのソロに降ってきた赤い花びらにはやや違和感が。松崎の奥底にある情念の象徴なのだろうか。

キムの神話的肉体は、冒頭の机シークエンスにおいて発揮された。美しい裸体である。後半のソロは恐らく松崎のイメージよりも滑らかに踊られた。荒ぶる神として、もう少し激しさ、空間支配が必要だったのではないか。坂田は狂言廻しの役回り。赤池との男女デュオはあっさりと、むしろキムとの男性デュオに感情の表出があった。キムを見守り支える盟友の雰囲気がある。松崎は以前、バレエダンサーの森本由布子と大嶋正樹に濃密なコンテンポラリー・パ・ド・ドゥを振り付けている。男女デュオを中心とする作品にも期待したい。

福田作品は、平本正宏のオリジナル音楽と高岡真也の映像がダンスと密接に結びついたコンテンポラリーバレエ。福田の意図が汲み尽くされている。表題の『The Overview Effect』(概観効果)とは、「宇宙空間で感じたパラダイムシフトによる意識の変革」とのこと。冒頭は渋谷のスクランブル交差点を歩く米沢唯の映像。そのまま舞台の米沢にフォーカスされ、前半が始まる。雲、星雲、海のダイナミックな映像をバックに、米沢と福岡の小デュオ、米沢と木下嘉人を中心とした男女4組が踊る。マオカラーの白チュニックを着た米沢は、瑞々しく、初々しい。作品解釈が定着する前の無垢な体が舞台に投げ出されている。中村恩恵版『火の鳥』を思い出した。

後半は強烈な原色映像。ラスコーの洞窟絵画、クローズアップされた植物、光のスペクトラムをバックに、福岡が芯となって踊る。地面を叩き、矢を射る振りは原始人を意味するのか。炎に包まれた廣田奈々の鹿踊りなど、原初的な光景、スマホをかざした群舞、スタイリッシュなコンテユニゾンが、映像と音楽に押し出されるように次々と現れる。終幕は冒頭と同じ渋谷の交差点。米沢が佇んでいるところに、現代人の福岡が「お待たせ」とやってきて、二人は楽し気に歩み去る。

宇宙から原始時代までを視野に入れた壮大な構想。映像の情報量が多く、ダンスそのものを見るというよりも、高度なダンスを組み込んだ総合的エンタテインメントの趣である。めくるめく旅をしたという印象だった。映像と音の洪水の中で、米沢と福岡の身体性はやはり突出する。一週間前には上田で『白鳥の湖』を踊ったばかりの二人。主役の気概を見せつけた。

カーテンコールで米沢が振付家呼び出しのフライング。恥ずかしそうにくるりと一回転した米沢を、福岡が背中を叩いて慰める。すると今度はシモテ袖から福田がフライングして、米沢をフォローした。まるでパ・ド・ドゥの出だし。福田の優しさが滲み出る。『雪女』(振付:中原麻里)で見せた熱い男ぶりを生かす男女デュオを見てみたい。

島地作品は、3本のスタンド・ライトによるフラットな明かりと、藤元高輝のギター演奏が時空を形成する。藤本は自曲(即興?)、モーリス・オアナ、バッハ、ヒナステラを自在に奏で、ダンサーを促し、駆り立て、鎮める。その素晴らしさ。時に発話、おりんをチーン。岡本優が笛や発話で加勢する。島地は、バレエダンサーにはフォーサイス節、コンテダンサーには即興と妙な動き(尻叩く、股叩く)、褌ダンサー五十嵐結也には五十嵐の動きを与えている。折に触れて、謡い、摺り足も。バラバラだが決してアナーキーにはならず。多様な体がそのまま肯定されて平等に存在する共同体が出現した。一種のパラダイスだが、一方でダンサーのダンスアプローチ、さらには生き方まで露わになる厳しさを纏う。島地の教師的佇まいゆえか。終盤、客席から島地とミストレスの酒井はなが舞台に駆け上がり、黒づくめのシルエットで離れたデュオを踊った。切れよく、美しく、戯れながら、飛び跳ねながら幕。夫婦のデュオでもストイックなまでに風通しがよい。平等なのだろう。

池田武志とフルフォード佳林のフォーサイス・デュオ、宝満直也と大木満里奈のバレエ・デュオ、五十嵐と岡本の四つん這いデュオ、大宮大奨は摺り足ソロ、猪野なごみ、梶田留以、五島茉佑子、堀江将司は、出入りしてインプロ混じりのソロ(堀江は謡いも)。それぞれカラフルな衣裳で島地ワールドを真剣に楽しんでいる。超個性派の五十嵐は別格として、岡本の軽やかで自在な踊り、宝満の生き生きとした踊り(発話も)が印象深い。カーテンコールでは、古楽と即興に秀でる優れたギタリスト藤元も、島地の指示で踊らされた。