2021年公演総括

2021年の洋舞公演を振り返る(含2020年12月)。

コロナ禍は依然として続いているが、昨年とは異なり、劇場が閉鎖されることはなかった。前半期は緊急事態宣言による公演中止や無観客公演、コロナ陽性者による公演中止等を経験。後半期は新規感染者数が減少したため、感染拡大予防策を講じつつ、ほぼ通常の公演状況に戻った。公演の配信も増加傾向にある。新国立劇場バレエ団は「ニューイヤー・バレエ」のコロナ陽性者による公演中止と、『コッペリア』の緊急事態宣言による公演中止を、急遽無料配信に転換した。吉田都芸術監督の英断である。次善の策としての無観客による公演配信は、実演者と観客が同じ空間を共有することの意味を再確認するきっかけとなった。その一方で『コッペリア』の全キャスト無料配信が、16万人超の視聴者を獲得するという思いがけない結果をもたらした。直接劇場に足を運べない地方の人々にも、高レヴェルの舞台芸術に触れる機会を提供できたと言える。

洋舞界では今年、舞踊評論家の山野博大(2月5日没、84歳)、舞踊家、舞踊評論家、『ダンスワーク』編集長の長谷川六(3月30日没、86歳)、舞踊家振付家で、松山バレエ団を設立した松山樹子(5月22日没、98歳)、舞踊家振付家、指導者で、牧阿佐美バレヱ団を設立、新国立劇場バレエ団の芸術監督を務めた牧阿佐美(10月20日没、87歳)を失った。表舞台から遠ざかっていた松山氏の訃報は、ある種の感慨を催すものだったが、直接面識のあった山野氏、長谷川氏、牧氏の訃報には、強い衝撃を受けた。

舞踊全般の公演でお見掛けした山野氏の最後の原稿は、日本バレエ協会「創造されたバレエの夢」(2/1~11 ユーロライブ)のパンフレットに掲載された「日本バレエ創作の軌跡をたどる」である。同協会の「Ballet クレアシオン」で発表された創作の記録映像会には、ご本人も出席される予定だったが叶わなかった。日本バレエ創作の歴史を細かく辿り、再演の意義とアーカイヴ創設への強い望みを訴えられている。誰がこのような文章を書けるだろうか。同文は今年の「Ballet クレアシオン」プログラムに再掲されている。

長谷川氏は恩師である。訃報は5ヵ月後にSNSを通して知った。長谷川氏らしい最期と言える。何もかも与えて下さった。一周忌にはこれまで書いたダンサー長谷川評をまとめて掲載する。

牧氏の追悼文を山野氏が書けなかったのは残念という他ない。一評論家の死は巨大なアーカイヴの消滅だった。牧氏は舞踊家、教育者、経営者、芸術監督であったが、第一には振付家だったような気がする。様々なムーヴメントへの好奇心、ダンサーの好みなど。最後に『トリプティーク』、『角兵衛獅子』第2幕、『フォー・ボーイズ・ヴァリエーション』、『ライモンダ』を見ることができてよかった。物語ることよりも、音楽性に秀でた振付家だった。最後にお見掛けしたのは、8月31日の「第19回牧阿佐美ジュニアバレヱトゥループ A.M.ステューデンツ公演」。福田一雄指揮、シアターオーケストラトーキョー演奏で、ダニロワ版『コッペリア』第3幕の牧改訂振付を見た。関直人と共に、バランシンの子供。ムーヴメントの音楽性、祝祭性が際立っている。

 

バレエ振付家

国内振付家では、関直人『ゆきひめ』『クラシカル・シンフォニー』(井上バレエ団)、牧阿佐美『ライモンダ』(新国立劇場バレエ団)、早川惠美子『スラブ舞曲』(日本バレエ協会)、佐々保樹『火の鳥』(国際バレエアカデミア)、今村博明・川口ゆり子『ジゼル』改訂(バレエシャンブルウエスト)、中島伸欣『Movement in Bach』(東京シティ・バレエ団)、中原麻里『コレ』(ラダンスコントラステ)。新国立劇場バレエ団系では、山本隆之『白鳥の湖』改訂(吹田市民劇場)、貝川鐡夫『カンパネラ』『Danae』『神秘的な障壁』(新国立)、福田圭吾『The Overview Effect』(日本バレエ協会)、宝満直也『美女と野獣』(大和シティ・バレエ)、髙橋一輝『コロンバイン』(新国立)。谷桃子バレエ団系では、髙部尚子『12人の踊る姫君』(日本バレエ協会)、石井竜一『Mozartiana』(Iwaki Ballet Company)、岩上純『Twilight Forest』(谷桃子バレエ団)、日原永美子『OTHELLO』(谷桃子)。それぞれビントレー、谷桃子振付家育成を推進した結果である。若手では関口啓『Holic』(スターダンサーズバレエ団)。番外は、DDD@YOKOHAMA芸術監督の小林十市と、「舞踊の情熱」(DDD@YOKOHAMA)を構成・演出した山本康介。

海外振付家では、アシュトン(牧阿佐美、小林紀子バレエ・シアター)、ロドリゲス(小林紀子)、マクミラン小林紀子)、P・ライト(スターダンサーズ、新国立)、ビントレー『ペンギン・カフェ』(新国立)『スパルタクス』pdd(DDD@YOKOHAMA)、ヨハン・コボー(NBAバレエ団)と、英国(+デンマーク)系が多い。モダンバレエでは、W・ダラー(牧阿佐美)、チューダー(スターダンサーズ)、R・プティ(牧阿佐美)、ベジャール東京バレエ団)、シンフォニックバレエでは、バランシン(スターダンサーズ)、ショルツ(東京シティ)。ロシア系では『海賊』改訂のアリーエフ(谷桃子)。

 

モダン&コンテンポラリーダンス振付家

モダンでは、正田千鶴『ヴィブラート』(東京新聞)、上原尚美『光澄む地にて』(東京新聞)。舞踏・フォーサイス系では、笠井叡『櫻の樹の下には~笠井叡を踊る~』(天使館)、山崎広太・西村未奈『幽霊、他の、あるいは、あなた』(DaBY)、島地保武『In other words』(日本バレエ協会)『Corrente』(音楽×空間×ダンス)『かそけし』(新国立)『思いの果てにある風景』(日本バレエ協会)、安藤洋子『MOVING SHADOW』(DaBY)、フォーサイス『ステップテクスト』(スターダンサーズ)『Study#3』よりデュオ(DaBY)。コンテンポラリーでは、遠藤康行『Little Briar Rose』(日本バレエ協会)、金森穣『残影の庭~Traces Garden』(Noism Company Niigata)、中村恩恵『BLACK ROOM』(DaBY)、松崎えり『sinine』(日本バレエ協会)、福田紘也『Life-Line』(大和シティ)。若手では橋本ロマンス『パン』(SICF)、中川絢音『my choice, my body,』(水中めがね∞)。番外は、岡田利規の『未練の幽霊と怪物』(KAAT)『瀕死の白鳥 その死の真相』(DaBY)。

 

女性ダンサー】

上演順に、小野絢子(宝満直也)、米沢唯のパキータ、佐藤麻利香のメドーラ、酒井はな(島地保武)、佐合萌香(ショルツ)、野久保奈央のシンデレラ、西村未奈(山崎広太・西村)、小野のオーロラ、木村優里(遠藤康行)、日髙有梨(ダラー)、米沢のオデット=オディール、日髙世菜のオデット=オディール、小野のスワニルダ、日髙世菜のキトリ、川口まり(平田友子)、野久保のキトリ、本島美和のドリ伯爵夫人、石橋静河岡田利規)、塩谷綾菜のスワニルダ、中川郁のリーズ、伝田陽美(ベジャール)、井関佐和子(金森穣)、池田理沙子の亀の姫、細田千晶(佐藤崇有貴)、菅井円加(ノイマイヤー)、酒井(岡田利規、コロナ関係中止で12月所見)、齊藤耀(岩上純)、佐藤(日原永美子)、佐久間奈緒(ビントレー)、青山季可(プティ)、大橋真理(ベジャール)、飯島望未(池上直子)、小野のオデット=オディール、柴山紗帆のオデット=オディール、沖香菜子(キリアン)、池田(髙橋一輝)、米沢(貝川鐡夫)。番外は片桐はいり岡田利規)。

 

男性ダンサー

上演順に、福岡雄大(宝満直也)、福岡(貝川鐡夫)、速水渉悟のパキータ・トロワ、福岡のコンラッド、福田建太(ショルツ)、大植真太郎(笠井叡)、山崎広太(山崎)、金森穣(金森)、島地保武(島地)、渡邊峻郁(遠藤康行)、水井駿介(牧阿佐美)、近藤悠歩(ダラー)、髙橋裕哉のジークフリード、グレゴワール・ランシエのロットバルト、山本隆之のコッペリウス、芳賀望のアルブレヒト、井澤駿のジャン・ド・ブリエンヌ、中家正博のアブデラクマン、元吉優哉のコーラス、大塚卓のロミオ、奥村康祐の浦島太郎、マチアス・エイマン(ブルノンヴィル)、福岡(福田紘也)、厚地康雄(ビントレー)、小㞍健太(C・パイト)、小林十市(アブー・ラグラ)、伊藤キム(BOXER&Hagri)、島地(フォーサイス)、林田翔平(友杉洋之)、藤島光太のシンデレラ王子、正木亮のシンデレラ父、小林(金森穣)、福岡のジークフリード、木下嘉人のベンノ、大塚の中国の役人。