2月に見た公演 2022 【訂正あり】

2月に見た公演について、メモしておきたい。

 

関かおり PUNCTUMUN『こもこも けなもと』(2月6日 吉祥寺シアター

振付・演出は関かおり。出演は、内海正孝、大迫健司、北村思綺、後藤ゆう(振付助手も)、佐々木実紀、清水俊、髙宮梢、真壁遥。以下は公演当日に書いた感想メモ。

面白い。埋め草がなかった。構成を考えてというよりも、自然発生的に作り上がっている感じ。音は無音がほとんどだが、時折、鳥の声、人の声、機械音、風の音、波の音が入る。中盤『瀕死の白鳥』がチェロから次第に人声で歌われる。この時の振付は、両腕を横に伸ばしてぐるぐる回す。クラリネットオーボエも概ね自然音に近い。ダンサーが立って客席を見る時は、客電が付く。客も見られている。ダンサーは薄ら笑い。

以前見たときは、四つん這いが多かったが、今回は様々な体を見ることができた。膝曲げひょこひょこ歩き(爺さん歩き)、前屈して片足を前に振って踏む前進など。ダンサーは自分をモノ化することができる。同時に個性も発揮できる(← 不思議)。ずっと見ていられるのは、全てに関の思考が行き渡っているから。ユーモアもある。自然な環境での動きの追求は、自分にとってはエンタテイニング。原始的な物語はある。

関は誰とも似ていない。誰の影響も受けていない。独力。明るい実験工房。前衛風の退廃はなく、これ見よがしなく、気持ちよく見た。

内海は長身で原始的な大きさ。大迫は滋味、受容力あり。北村はドラマを含んだ顔、体も美しく、よく磨かれている。後藤は風が吹くような体、意識化されている。終盤のソロは目が離せなかった。佐々木はオカッパで三転倒立。清水は人の好さ。髙宮はショートで小野絢子似。すっきりしている。真壁はボソッとした個性。

 

水越朋✕力石咲『エコトーン ECHO-TONE』(2月12日 吉祥寺シアター

吉祥寺ダンス LAB. vol.4 。vol.1 は、北尾亘✕ASA-CHANG『シノシサム』、vol.2 は、岩淵貞太✕額田大志『サーチ』、vol.3 は、かえるP『PAP PA-LA PARK/ぱっぱらぱーく』と、異ジャンルと絡む実験色の強い企画である。今回はダンサーの水越朋、ニットで創作する美術家の力石咲の組み合わせだった。劇場入口からニット玉のインスタレーションが観客を出迎える。舞台では、シモテ前上方に赤いニット玉が吊られ、そこから一本のロープ状毛糸が丸い穴へと垂れ下がっている。カミテには、奥に向かって高くなる巨大な釘の列が整然と並ぶ。編み機のようだ。

上演時間は1時間20分。その前半部はニット玉がほぐれる時間だった(奥壁で生中継映像あり)。むくりむくりとロープ状の毛糸がほどける映像を見ていると、何とも言えぬ快感がある。実物の方は、ほどける度にぶるっと震える。まるで生き物を見るようだった。こうした空間の中、水越はつま先立ちでスロー歩行した後、毛糸玉と共にほどける体となった。くねりくねりと動く体とむくりむくりほどける毛糸玉の呼応、面白かった。

後半は毛糸を編む時間。力石が一人黙々と巨大編み機でジグザグ模様を編んでいく。その間、中空では二つのニット玉モビールが流動する。互いに追いつきそうで追いつけない絶妙な間合い。空間をゆっくりと撹拌し、観客の体を催眠術のようにほぐしていく。音楽は、音階、動物の鳴き声、鐘の音、鼓動など。ダンス LAB にふさわしい空間体験だった。水越のダンスは後半やや強度を落としたが、意図したものだろうか。

 

谷桃子バレエ団「Love Stories in Ballet」(2月23日 玉川区民会館・ホール)

バレエ団の主役級が6つの愛を踊り継ぐバレエコンサート。客席には親子連れが多く、童話の世界から濃厚な愛の情景までを、近距離で楽しんでいた。演出・振付は伊藤範子。これまでチャコット主催の普及公演でも、細やかな美意識に則ったバレエコンサートを演出している。今回も衣裳の選択に始まり、的確な選曲、適材適所の配役、音楽的で難度の高い振付を見ることができた。ダンサーへの要求もいつもながら厳しく、作品に応じた演技と舞踊スタイルが徹底されている。

プロローグはヴェネツィアの星空の下、仮面を付けた黒い衣裳の女性クラウンたちが、マンドリン曲をバックに、6人の女性主人公を次々と導いていく。クラウンたちは言わば狂言回しで、大きな白い木枠を動かしては場面転換させ、時にアンサンブルとして踊りに参加した(最初はクラウンと思わず、愛のキューピッドなのに黒い服?と思ったりも)。

1つ目の愛は『白雪姫』― 慈しみの愛。可憐な白井成奈が、7人の小人と可愛らしく交流する。2つ目の愛は『くるみ割り人形』― 憧れの愛。樅の森で、前原愛里佳の瑞々しいクララと、行儀のよい王子 土井翔也人が、初々しいパ・ド・ドゥを披露した。

3つ目の愛は『シンデレラ』― 切ない愛。舞踏会での出会いと別れを、木枠を駆使して演出。ラピスラズリのドレスを身に着けたシンデレラ 山口緋奈子は、演技派。王子 市橋万樹との出会いを情感豊かに演じた。市橋は踊りも凛々しく、礼儀正しく山口をサポートする。踊りもさることながら、二人の演技の細やかさに目を奪われた。

4つ目は『ロメオとジュリエット』― 燃えるような愛。グラン・リフトのあるドラマティックなバルコニー・パ・ド・ドゥを、齊藤耀と牧村直紀が踊る。齊藤の可愛らしさ、豊かな音楽性と、牧村の暖かい包容力が響き合い、生き生きとした喜び、瑞々しい愛に満ちたパ・ド・ドゥとなった。終盤、二人が同じ振付をカノンで踊るシークエンスは、まるで対話のよう。微笑ましかった。

5つ目の愛は『千夜一夜物語』― 魅惑的な愛。【以下訂正文】シェヘラザードとシャフリヤール王を、馳麻弥と三木雄馬が踊る。紫のハーレムパンツを身に着けた馳は、濃厚で強い存在感。持ち前の強靭な動きに繊細さが加わり、王を誘う姿に煌めくような艶やかさを漂わせた。対する三木は考え抜かれた演技と踊り。しなやかで分厚い肉体、ベールを含めたサポートも万全。馳を自由に踊らせた。艶めかしくエロティックなパ・ド・ドゥに、客席の子供たちがどう思ったかという心配も。

6つ目の愛は『ドン・キホーテ』― ハッピーエンドの愛。ソリスト、アンサンブルを加えたグラン・パを、技巧派の竹内菜那子と田村幸弘が踊る。竹内の決めが鋭くメリハリある 江戸っ子のような踊りが素晴らしい。正確な技術はもちろんのこと、全てに神経を行き届かせた目の覚めるようなキトリだった。テクニシャン田村も、少し気圧され気味ながら、高い技術と覇気で応戦した。高谷麗美、奥山あかりのヴァリエーションも見応えがある。

フィナーレはレハールの『メリーウイドウ』(舞踏会の妖精たち)で全員が登場、6組が同じアラベスクを見せるシーンは壮観だった。童話に始まり、若い愛から成熟した愛、さらに古典の頂点に至る、バレエへの愛に満ちた公演だった。