小林紀子バレエ・シアター「アシュトン・マクミランプログラム」2022

標記公演を見た(9月3日 新国立劇場中劇場)。アシュトン振付『レ・パティヌール』(SWB37年 / 団98年)、マクミラン振付『ザ・フォーシーズンズ』(RB75年 / 団初演)による英国バレエダブル・ビル。それぞれマイヤベーアのオペラ『預言者』のバレエ曲(他)、ヴェルディのオペラ『シチリアの晩鐘』のバレエ曲(他)に振り付けられた。アシュトンは初期、マクミランは中期だが、対照的な個性は明らかである。前者のクラシック技法探究とその拡張、フォーメーションの幾何学的美意識。対する後者のクラシック技法ドラマ活用、内面を反映した複雑なパートナリングなど。アシュトンの「形式」に対する鋭い感受性、マクミランの「内容」重視がよく表れている。

再演を重ねる『レ・パティヌール』の完成度は高い。ソリスト、アンサンブル共に、クラシック技法とスケート動きを融合させた振付を楽しそうに踊り、出入りの絶妙なフォーメーションを流れるように紡いでいる。真野琴絵、濱口千歩のブルーガールズが、きびきびとした踊りで作品を牽引。ブルーボーイ八幡顕光の機嫌のよい踊り、ホワイト・カップル島添亮子・望月一真のゴージャスな存在感、レッドガールズ澁可奈子、中村悠里の大人っぽい雰囲気、ブラウン・カップルの重厚なマズルカなど、英国スタイルを重んじるカンパニーの美点が生かされていた。

マクミランの『ザ・フォーシーズンズ』は、冬、春、夏、秋、それぞれのソリストが個性と技量を主張する作品。ペニー、メイスン、コリア、ダウエル、ウォール、スリープ、イーグリング等、当時のロイヤル・バレエダンサーの作った役に、ダンサーたちは果敢に挑戦したが、初演とあってまだこなし切れていない様子。アンサンブルのスタイルや方向性も、アシュトン作品に比べるとやや統一感に欠ける。その中で、マクミランを踊り込んできた「秋」の島添が、抜きん出た技量を見せた。美しいライン、切れ味鋭い体捌き、ヴェルディの粋を聴かせる優れた音楽性。マクミランのドラマティックなニュアンス表出に、『マノン』『コンチェルト』を踊った蓄積が感じられた。また複雑なリフトで献身的サポートを見せた「春」上月佑馬の、確かな技術とスタイルも印象深い。

美術はシャーロット・マクミラン細胞分裂の映像(立石勇人)と、細胞模様のレオタードで、近未来の味わいを作品に与えている(初演美術はピーター・ライス。南イタリアの農民、兵士、旅人の衣裳、宿屋が舞台だった。80年再演の美術はデボラ・マクミラン)。

指揮の井田勝大は、東京ニューフィルハーモニック管弦楽団を率いて、マイヤベーア舞曲の楽しさ、ヴェルディの重厚さを醸し出し、初演を含む舞台作りに大きく貢献した。