牧阿佐美バレヱ団『飛鳥 ASUKA』2022

標記公演を見た(9月4日 東京文化会館 大ホール)。昨年10月28日に87歳で逝去した牧阿佐美の追悼公演。公演直後の9月6日には、バレヱ団と、牧が長年舞踊芸術監督を務めた新国立劇場の運営財団による「お別れの会」が、新国立劇場 中劇場で盛大に執り行われた。

『飛鳥 ASUKA』改訂版初演は2016年(コチラ)。スヴェトラーナ・ルンキナとルスラン・スクヴォルツォフの主演による。翌年ニーナ・アナニアシヴィリ、スクヴォルツォフ主演で富山再演、18年ハッピーエンドに改訂して、ルンキナ、スクヴォルツォフで再演、19年青山季可、中川郁、清瀧千晴主演によるマリインスキー劇場プリモルスキー分館公演を経て今回に至る。振付家本人が変更したハッピーエンドは順当に元に戻され、1幕最後の愁嘆場はやはり長いと感じさせつつも、全体に流れがよく、練り上げられた演出だった。

以前との違いは、動きへのミリ単位の意識。6月公演プティの『ノートルダム・ド・パリ』も同様だが、ドラマの流れがよくなる代わりに、動きへの切込みがゆるやかになった。振付家としてムーブメントを探究してきた牧の眼がなくなったせいだろう。振付自体はやはり二つのディヴェルティスマンが素晴らしい。生き生きとしたアレグロに、思いがけない動きのアクセントがちりばめられている。音楽的な振付家、牧の創意がよく表れている。

春日野すがる乙女の初日は青山、二日目が中川、岩足は清瀧千晴、水井駿介。その二日目を見た。すがる乙女の中川はこれ見よがしなく、役の心情に沿ってすっきりと演じている。大劇場ゆえ、やや伝わりにくいところもあったが、オーガニックな味わいは中川にしかない美点。汚れた衣装で息絶える終幕は、胸に迫るものがあった。対する岩足の水井は、鮮やかなソロに見応えがある。アダージョは献身的だが、もう少し相手を踊らせる余裕が望まれる。

竜神の菊地研、黒竜田切眞純美、竜神の使いのラグワスレン・オトゴンニャムは適役。阿部裕恵の竜剣の舞は音楽的。金竜の光永百花、銀竜の日髙有梨・近藤悠歩、青竜の久保茉莉恵が、主役級の輝かしさを放っている。

改訂版初演・再演に続き、デヴィッド・ガーフォースが雄大な切れのよい指揮で、舞台を作り上げた。序曲、間奏曲ではオーケストレーションを味わい、楽しんでいる様子も。雅楽を含む日本調メロディに、ワルツ、ハバネラ、ジャズ、銅鑼も鳴る 片岡良和の多彩な音楽が生き生きと蘇った。演奏は東京オーケストラ MIRAI。