東京バレエ団『スプリング・アンド・フォール』『イン・ザ・ナイト』『かぐや姫』第2幕 2023

標記公演を見た(4月30日 東京文化会館 大ホール)。ノイマイヤー、ロビンズ、金森穣作品によるトリプルビル。音楽はドヴォルザークショパンドビュッシーの組み合わせとなった。

幕開けのノイマイヤー振付『スプリング・アンド・フォール』(1991年/団初演2000年)は、ドヴォルザークの弦楽セレナーデに乗せて、青春の若々しい息吹きを描いたモダンバレエ。若者のための作品、朋輩の作品である。生き生きと踊る男女アンサンブルの中心には大塚卓と足立真里亜(初日は秋元康臣、秋山瑛)。大塚はもう少しタフネスが必要かもしれないが、振付アクセントをよく押さえ、瑞々しい青年を踊り抜いた。不思議なのは、ベジャール、キリアンで見せた決然とした振付遂行に、やや迷いが見えること。ハンブルク・バレエ学校出身だが。ノイマイヤー語彙の装飾性、恣意性が振付解釈の掘り下げを阻んだのかもしれない。対する足立は意志の強いはっきりとした踊りを見せた。二人の後を追う鳥海創の慎ましさ、アンサンブルでは山下湧悟の美しい腕使いが目を引いた。

ロビンズ振付『イン・ザ・ナイト』(70年/団初演17年)は、3組の男女がショパンノクターンに乗って踊るロマンティックな作品。一見シンプルに見えるが、隅々まで計算し尽された傑作である。歩行がダンスになるのはロビンズの大きな特徴。ただ歩くだけでドラマが立ち上がる。リフトの細工はカップルの成熟度に合わせて。ダンサーが舞台からいなくなったり、袖を2回出入りするなど、思いがけない空間も出現する。音楽から生み出される動きが、堅固な美学によって磨かれた一種ストイックな作品である。

若く瑞々しい第1カップルには秋山瑛と秋元康臣。秋山はラインのすみずみまで情熱が宿り、抒情的で音楽的な踊り。振付を見定めている。秋元は相手をよく踊らせる献身的パートナーだった。落ち着いた愛情深い第2カップルには中川美雪とブラウリオ・アルバレス。中川の格調高い踊りに、アルバレスのノーブルな騎士道が組み合わさり、正統派ア・テールのデュエットが現出した。激情にまかせたドラマティックな第3カップルには平木菜子と柄本弾。平木は肚が座った情熱的な踊り。大胆なリフトに一瞬の躊躇もなく挑む。柄本は力強いサポートと熱い肉体で、平木をダイナミックに受け止めた。男性陣の手厚いサポートに助けられ、女性陣が個性を十全に発揮、配役の妙もある。ピアノ生演奏の松木慶子が3組を大きく盛り立てた。

金森穣演出振付のかぐや姫は今秋、全3幕が完結する。帝の宮廷を舞台とした今回の第2幕は、金森の美学が横溢した仕上がり。前回の第1幕ではリアルな美術・衣裳がやや説明的だったが、第2幕では近未来風のソリッドな衣裳(廣川玉枝)、簡潔で美しい美術(近藤正樹)と映像(遠藤龍)が、普遍的な美の世界を作り上げた。振付も練度が上がり、バレエダンサーの美点がよく生かされている。帝の孤独のソロは、ダンサーの実存が露わになる金森入魂の振付。帝、かぐや姫、影姫(帝の正室)のパ・ド・トロワは、バランシンの『アポロ』や『セレナーデ』を想起、影姫のパ・ド・サンクはマクミラン張りの連続リフトが用いられた。アンサンブルの中腰や黒子など、同団ならではの蓄積と合致する。男性群舞の振付は金森と同団の組み合わせなら、さらに追求できるのではないか。

かぐや姫の秋山は感情の振幅が大きく、怯えから怒りまでを雄弁に演じ切った。よくドラマが伝わってくる。道児の柄本はのそっとした体つきながら、心の奥底に狂気を垣間見せる。翁の木村和夫は同郷の笠智衆を思わせる飄々とした佇まい、秋見の伝田陽美は秋山と阿吽の呼吸でキリッとした教え方、影姫の沖香菜子は相変わらずゴージャスで美しい体を披露。帝の大塚は持ち前の鋭い振付解釈に、牧神風のエロティシズムを漂わせ、本幕の要となった。大臣、側室ともに実力派を投入、全体に第1幕よりも踊りが伸びやかになり、全幕への期待を抱かせた。選曲は魅力的ながら、録音音源にバラつきがあり、生演奏での上演が望まれる。