標記公演を見た(8月19, 21日 昭和女子大学 人見記念講堂)。パリ・オペラ座バレエ団の精鋭11人によるガラ公演が、2プログラム4日間5公演の日程で開催された。芸術監督は元オペラ座バレエ団スジェ、ナンシー・バレエ団プリンシパルで、現在オペラ座バレエ団教師、パリ国立高等音楽・舞踊学校バレエ科教授のジル・イゾアール。自らを含むオペラ座ゆかりの振付家作品を選び、ダンサーたちと共に、オペラ座の精神を観客に伝えている。演目は以下の通り。
[Aプロ]
① ジャン=ギョーム・バール振付『ベルガマスク』(音楽:フォーレ) イネス・マッキントッシュ、フランチェスコ・ムーラ
② プティパ振付『海賊』よりPDD(音楽:ドリゴ) リュシアナ・サジオロ、シェール・ワグマン
➂ ローラン・プティ振付『ランデ・ヴー』(音楽:ジョゼフ・コズマ) ドロテ・ジルベール、ギョーム・ディオップ
④ M・タリオーニ/ピエール・ラコット振付『パピヨン』(音楽:オッフェンバック) カン・ホヒョン、ロレンツォ・レッリ
⑤ ジョゼ・マルティネス振付『ドリーブ組曲』(音楽:ドリーブ) ブルーエン・バティストーニ、ポール・マルク
⑥ アンジェラン・プレルジョカージュ振付『ル・パルク』(音楽:モーツァルト) ドロテ・ジルベール、ギョーム・ディオップ
⑦ プティパ振付『ドン・キホーテ』より第3幕PDD(音楽:ミンクス) イネス・マッキントッシュ、フランチェスコ・ムーラ
⑧ ジル・イゾアール振付『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』(音楽:ヴィヴァルディ) カン・ホヒョン、ロレンツォ・レッリ
⑨ ワイノーネン振付『パリの炎』よりPDD(音楽:アサフィエフ) リュシアナ・サジオロ、シェール・ワグマン
⑩ ヌレエフ振付『白鳥の湖』より黒鳥のPDT(音楽:チャイコフスキー) ブルーエン・バティストーニ、ポール・マルク、エンゾ・ソガール)
⑪ フォーキン振付『瀕死の白鳥』(音楽:サン=サーンス) ドロテ・ジルベール
[Bプロ]
① ジョゼ・マルティネス振付『スカルラッティ・パ・ド・ドゥ』(音楽:スカルラッティ) リュシアナ・サジオロ、シェール・ワグマン
② プティパ/ヌレエフ振付『ラ・バヤデール』第1幕より(音楽:ミンクス) ドロテ・ジルベール、ギョーム・ディオップ
➂ マニュエル・ルグリ振付『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』(音楽:ドニゼッティ) イネス・マッキントッシュ、フランチェスコ・ムーラ
④ コラーリ、ペロー振付『ジゼル』第2幕よりPDD(音楽:アダン) カン・ホヒョン、ロレンツォ・レッリ
⑤ プティパ/ヌレエフ『眠れる森の美女』第3幕PDD(音楽:チャイコフスキー) ブルーエン・バティストーニ、ポール・マルク
⑥ ベジャール振付『さすらう若者の歌』(音楽:マーラー) ギョーム・ディオップ、エンゾ・ソガール
⑦ ジル・イゾアール振付『ファンテジー』(世界初演、音楽:フィリップ・ゴーベール) ブルーエン・バティストーニ、ポール・マルク、クラリネット:ジョエ・クリストフ、ピアノ:李早恵
⑧ プティパ振付『タリスマン』よりPDD(音楽:ドリゴ) リュシアナ・サジオロ、シェール・ワグマン
⑨ ヌレエフ振付『ロミオとジュリエット』第1幕PDD(音楽:プロコフィエフ) カン・ホヒョン、ロレンツォ・レッリ
⑩ プティパ振付『海賊』よりPDT(音楽:ドリゴ) イネス・マッキントッシュ、フランチェスコ・ムーラ、エンゾ・ソガール
⑪ フォーキン振付『瀕死の白鳥』(音楽:サン=サーンス) ドロテ・ジルベール
オープニングとして、Aプロは李早恵のピアノ、Bプロはジョエ・クリストフのクラリネットと李のピアノ演奏で、全員が涼やかに佇み、音楽的でシックな顔見世を行なった。
コンサート・ピースを差し挟みつつ、全体にオペラ座の雰囲気を醸し出すプログラム。プティ、ベジャール、ラコット、ヌレエフ、ルグリ、イゾアール、マルティネス、バールの作品が並ぶ。プティとベジャールは独自のスタイル、ラコット、ヌレエフは19世紀の舞踊スタイルを追求し、二人の薫陶を受けたルグリ、イゾアール、二人の作品を踊ってきたマルティネス、バールも、少なからぬ影響を受けただろう。ルグリの技巧、イゾアールの音楽性、マルティネスの大らかな古格、バールの自然な身振りとバットリーの融合など、様々な作品を味わうことができた。
現役バレエ団教師がまとめたせいか、やはりオペラ座での位置付けが反映した公演。今秋定年を迎えるドロテ・ジルベールが、エトワールの格の高さを見せつけている。『瀕死の白鳥』では、天井から吊るされ、天と地の間で浮いているような白鳥を造形。磨き抜かれた動きは、日本舞踊や茶道のお点前のような、突き詰められた所作と化している。プティ振付『ランデ・ヴー』のエスプリ、プレルジョカージュ振付『ル・パルク』の全幕を背負ったPDD、研ぎ澄まされたニキヤの踊りは、若手への遺言に思われた。対するギョーム・ディオップは、かつての線の細さは消え、『ランデ・ヴー』での厚みのある青年、『ル・パルク』での素直で瑞々しい踊り、逞しさを帯びたソロルなど、エトワールとしての大きさを感じさせた。
同じくエトワールのブルーエン・バティストーニは、益々の風格とエレガンスを備え、華やかなオディール、貫禄のオーロラを披露した。パートナーのポール・マルクはなぜか坊主頭だったが、癖のない明るい踊りで、バティストーニを支える。今秋からサバティカルに入る(そのような制度があるとは)とのことで、少し解放された体だった。二人の踊る『黒鳥』PDTでは、スジェのエンゾ・ソガールがヌレエフ版のシンボル、ロットバルトを踊り、圧倒的な存在感と技術の高さを見せつけた。ソガールはディオップと踊った『さすらう若者の歌』でも、青のディオップを導く赤の青年を演じ、暗い存在感とラインの美しさで輝きを放つ。『海賊』PDT のコンラッドでは、スペイン風の切れ上がったラインに、鋭いのけぞりを見せて、今後の活躍を予感させた。
昨年の『バレエ・スプリーム』では、アントワーヌ・キルシェールと組んで初々しい才能をのぞかせたカン・ホヒョンは、今回スジェのロレンツォ・レッリと組み、プルミエール・ダンスーズの実力を示している。ラコットの『パピヨン』ではアレグロの超絶技巧、イゾアールの『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』では豊かな音楽性、『ジゼル』では繊細で切れの良い踊り、ヌレエフの『ロミオとジュリエット』では鮮やかな体捌きを見せて、作品を踊り切る意志を貫く。対するレッリは、恵まれた体とノーブルな佇まいで目を奪ったが、ヌレエフの複雑なパートナリングには苦戦したようだ。
イネス・マッキントッシュとフランチェスコ・ムーラの主役組は、バールの『ベルガマスク』、『ドン・キホーテ』、ルグリの『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』、『海賊』よりPDTを踊り、大技から小技までの高い技術と、生き生きとした踊りで会場を温めた。また若手のリュシアナ・サジオロとシェール・ワグマンが、サジオロの素直で弾ける踊り、ワグマンの、役からは外れているが、超超絶技巧で、会場を沸かせている。ワグマンはオペラ座ではどのように演じ踊っているのだろうか。
会場が変わったせいか、全体的に少しおとなしめの舞台印象ながら、オープニングからフィナーレまで、イゾアールの美意識に則った公演だった。