* 勅使川原三郎・佐東利穂子『ロミオとジュリエット』(4月27日 カラス アパラタス)
R・シュトラウスの歌曲「モルゲン あした」をモチーフに、ロマンティックなピアノ曲、さらにバッハの「ラルゴ」を使用、ロミオとジュリエットの死後の魂の触れ合いが、流れるような踊りで綴られる。途中 ノイズ系音楽が流れ、勅使川原はグロテスクな身振りやユーモラスな踊りを見せる。その間、ジュリエットの佐東利穂子は何かを求めるように舞台を駆け巡る。「死と乙女」の構図だろうか。
佐東は裸足、透き通るワンピースに長い銀髪をなびかせて、美しい死霊となる。薄闇では足のペデュキアが光るが、明るくなると見えないのが象徴的。二人の魂は触れ合わないまま揺蕩い、終盤 死の場面が「再現」される。ジュリエットが仮死の薬を飲み、ロミオは横たわるジュリエットを見て、毒薬を飲む。生き返ったジュリエットは、ロミオの亡骸を前に、短剣で胸を突く。その無言の芝居のリアリティに驚かされた。踊りの抽象性と同レヴェルの虚構度の高さがある。
「モルゲン」の流れる中、二人は絡まり合って死に至る。その後仰向けの遺骸となり、シンメトリーに流れる座位となって蘇る。前作の『インダストリアル ブック』といい、これまで触れ合わなかった二人のデュエットに変化が見えた。主演後のご挨拶は、やはりほのぼのとした雰囲気だった。佐東の言葉「ここで ‶何もない体” になれることが嬉しい(ありがたい?)」が印象深い。 旧Twitter 4/28 初出
以下は『インダストリアル ブック』(3月14日 カラス アパラタス)感想。
勅使川原の原点という「ノイズ」をフォーカスした新作。音源には勅使川原の自作もあるという。切れのよいグギグギ踊り、コクトーを思わせる鏡の魔術、自在な照明は手練の技。鮮やかだった。そこに裂け目を入れたのが、作品半ばの女性の歌。少年のような曖昧な声質に、気怠くふらついた歌いぶり。勅使川原と佐東のガッとした動きが、ロック魂を帯びて、肉体そのものが顕現する。物質的な手触りを感じさせた。
終演後のご挨拶では、欧州ツアーを終えて晴々とした勅使川原が。体からそこはかとないユーモアが漂う。ブルージュをブリュッセルと言い間違えると、傍らの佐東から無言のツッコミが。瞬時にそれを読み取って訂正。佐東も徐々に笑顔となり、夫婦漫才のようなおめでたい空気がアパラタスを満たした。「(アフター)トークじゃないから」という言葉も流れて、常々話が長いと言われていることが判明した。 旧Twitter 3/15 初出
* ティアラこうとうジュニアバレエ団「バレエ・コンサート」(5月3日 江東区文化センター ホール)
構成・演出・振付:石井清子、指導:安達悦子、堀田麻子、高木糸子、志賀育恵、上山千奈、信田洋子、友利知可子、坂本麻実。演目は、クラシック・チュチュで踊る『ブリリアント・プロローグ2026』に始まり、上山の解説による「バレエ講座」を挟んで、キャラクター色濃厚な『ボレロ』、最後は『リゼット』の音楽による牧歌的な『カントリー・スケッチ』と多彩。石井振付の様々なフェイズを味わうことができた。
中でも『ボレロ』は、石井の激しい情念と音楽が渾然一体となった作品。ゲストの熊谷天志(東京シティ・バレエ団)が、エネルギッシュな踊りで、16人の女性ジュニアを牽引した。音楽に入りこみ、感情の赴くままに踊る喜びが、若い世代の踊りから伝わってくる。『カントリー・スケッチ』では、同じく同団ゲストの大川彪が、伝統のノーブル・スタイルで愛のPDDを先導した。女子児童5人(少年役を含む)の踊る「一緒に遊ぼう」の愛らしさも。児童舞踊は、石井振付の醍醐味の一つである。
終演後の帰り道、小さな女の子がお父さんと手を繋ぎ、「わたしも踊りたい」と呟く。かつて石井版『くるみ割り人形』の幕間ロビーで、女の子が石井の元に駆け寄り、「わたしも踊りたいの」と訴えていたことを思い出す。石井のバレエへの愛と、子供たちへの慈しみが、舞台を通して伝わるからだろう。
* スターダンサーズ・バレエ団『シンデレラ』(5月10日昼 テアトロ・ジーリオ・ショウワ)
公演はリラックスパフォーマンス形式で、上演中でも途中退席可能、客電を薄く点灯、ロビーの休憩エリア、優先席などの工夫が凝らされている。プレトークでは、小山久美総監督による分かりやすいお話と、関口啓による全身躍動マイムで、公演形態およびバレエのマイムについて解説が行われた。
鈴木稔版『シンデレラ』は、2匹の男女ねずみが活躍。リモコン人形体から、被り物状態、そして人間と、3段階に変身してシンデレラを支える。2人の連れ添う暖かさが、シンデレラの淋しさを慰める。また、忙しいビジネスマンの父親が家庭を顧みないことから、継母の継子いじめが促されるという独自の設定も。振付は、仙女の率いる1幕妖精たちのコンテンポラリー・バレエが、大きな特徴。フォーサイス張りの誇張したエポールマン、体の微細な捻りが、プロコフィエフ音楽とピタリと一致し、バレエ団の個性であるスレンダーな身体と音楽性を強調する。爽快感のあるアンサンブルだった。
主役は、冨岡玲美・林田翔平、阿部裕恵・西澤優希、塩谷綾菜・吉田周平の3組。そのうち最終回を見た。塩谷は繊細なシンデレラ。清潔な踊り、そこはかとないユーモアと暖かみのある演技が、現代では珍しいおとぎ話風のシンデレラを描き出す。踊りに入る前の静けさ、細やかな動き出しに、塩谷の穏やかな精神性が垣間見えた。ねずみたちとのやりとりも自然。対する吉田はバレエ団初お目見え。前所属団体でも献身的な踊りを見せていたが、今回も誠実な演技と丁寧な踊りで、塩谷を支えている。ベテランらしい懐の深さがあった。固定馬(背景が動く)の乗馬で、客席から起こった子供たちの大きな笑い声を、側面から真摯に受け止めていたのが印象深い。
父は精力的な大野大輔、母は少しやさぐれた中川郁、義姉妹は元気な石山沙央理、前田望友紀、王子友人はノーブル控えめな井上興紀、渡辺大地、大臣は鷹揚な福原大介、臣下はよく心得た鴻巣明史、家来はよく働く飛永嘉尉。仙女にはスレンダーな強さの角屋みづきが配された。小さな友達(ねずみたち)は、被り物時が髙橋麗・愛澤佑樹、人間時が早乙女愛毬・加地暢文、洋服屋はよく踊りよく動く関口啓、父の秘書は初々しい若宮嘉紀で、二人はたすき掛け出演。洋服屋店員は岩崎醇花、岩本優里、御者は井上、飛永だった。
指揮は松本宗利音(シューリヒト)、管弦楽はテアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ。昨年の『コッペリア』(ドリーブ)同様、プロコフィエフの全ての音が有機的に立ち上がり、生きた情景を描き出す。鈴木の細やかな演出と響き合い、隅々まで血の通った舞台となった。
* 谷桃子バレエ団『眠れる森の美女』(5月17日夜 千葉文化会館 大ホール)
千葉県文化振興財団40周年記念事業、文化会館リニューアルオープン杮落としの一環である。エルダー・アリーエフ版『眠れる森の美女』は、2016年バレエ団初演。アリーエフは監修のイリーナ・コルパコワと相談の上、 K・セルゲーエフ版を基盤としつつ、ロマンティック・バレエ寄りのスタイルを選択した。アリーエフ振付の特徴は優美なPDD。2幕幻影のオーロラとデジレのアダージョ前半部、3幕シンデレラとフォルチュネ王子のデュエットは、ロマンティックな情感を伴う優れた振付である。22年再演時はアリーエフが来日不可となり、古典寄りの演出に。さらに2時間半強の短縮版となったが、作品の見せ場、エッセンスを外さず、古典バレエの品格を保っている。
主役キャストは4組。殿岡遥・森脇崇行、森岡恋・昂師吏功、山口緋奈子・中野吉章、殿岡遥・今井智也(殿岡は大塚アリス故障降板のため代役)、そのうち最終回を見た。初役の殿岡はこれ見よがしなく自然体のオーロラ姫。まだラインの見せ方やコントロールなど、工夫の余地が残されているが、踊りが生まれる瞬間は自然。気持ちから踊りが始まっている。特に2幕幻影の儚さが印象深い。対する王子の今井は、バレエ団伝統のノーブルスタイルを体現。端正な踊り、暖かなサポート、オーロラを見守る情熱的な佇まいが揃い、ゆったりとしたデジレ像を造形した。
リラの精は嶌田紗希、カラボスは三木雄馬。嶌田は長い手脚を生かした大らかな踊り。善の精の凛とした厳しさよりも、艶やかさ、華やかさが優る。対する三木は、まだ少し控えめながら適役、暗い妖しさを滲ませた。妖精たちは実力派揃いだった。特に元気の精の齊藤綾乃、勇気の精の田中景都の、伸びやかな踊りが印象深い。国王の齊藤拓、王妃の光永百花は鷹揚、カタラビュート/ガリフロンの貫渡竹暁は心得た演技で、生き生きと務めている。
3幕ディヴェルティスマンは金・銀・宝石の精を省略し、童話の主人公たちのみ。子猫(石川真悠)、長靴をはいた猫(児玉光希)、赤頭巾(奥山紗希子)、狼(鈴木謙信)は達者な演技で、祝宴の楽しみとなる。フロリナ姫 高谷麗美の鮮烈な脚捌き、青い鳥 田村幸弘の躍動感あふれる踊りに続き、シンデレラの白井成奈、フォルチュネ王子の飯田嵐が、優美なデュエットを踊って、アリーエフのロマンティシズムを体現した。
オーロラに求婚する4人の王子(二村康哉、飯田嵐、西出拓真、安田幹)は、バレエ団伝統のノーブルスタイル、また3幕マズルカ6組の男女が、貴族の優雅な踊りを披露して、若手育成の成果を示している。1幕村人ワルツの娘らしいアンサンブル、一般オーディションの子役たちも、古典の様式に則った踊りで、舞台を華やかに彩った。
* バレエシャンブルウエスト『眠れる森の美女』(5月30日 J:COMホール八王子)
演出・振付は今村博明、川口ゆり子、ウエストモーランド版に準じた英国ロイヤル系の『眠り』である。プロローグの妖精たちにはカバリエールが付き従い、リラの精のヴァリエーションはプティパ振付、3幕の金・銀・宝石は男女2組のPDQとなっている。2幕森の踊りは、「鬼ごっこ」に始まり、メヌエットで貴族の格調の高さ、タランテラで王子の凛々しさ、ファランドールで村人たちの素朴さを描いて、メリハリある一場を構成する。王子のフィアンセも登場するが、王子結婚後はどうなったか気になるところ。3幕ではシンデレラとフォーチュン王子も踊り、シンデレラがドレスへの早替わりを見せる楽しさも。全体にマイムがよく残され、バレエ団の演劇的美点を強調する版と言える。
主役はWキャスト。初日のオーロラ姫は松村里沙、二日目は柴田実樹が予定されていたが故障降板で川口まり、王子はそれぞれ福岡雄大、早川侑希という配役。その二日目を見た。川口は清潔なラインと丁寧な踊りで、すっきりとしたオーロラを造形。一つ一つの踊りに真摯に向き合うあまり、やや表情が硬くなりがちだが、最後には晴れやかな笑顔を披露した。対する王子の早川は、今村総監督の薫陶を受けたノーブルスタイル。高い技術に華やかで力強いオーラを放つ。3幕ソロは勇壮ですらあった。
カラボスの伊藤可南は、バレエ団伝統の艶やかな美しさ、リラの精の村井鼓古蕗は、アラベスクに風格を纏い、マイムは雄弁、全体を見守る大きさがある。フロレスタン24世王の正木亮は、型に嵌まらず、真情のこもった演技で、舞台に真実味を与える。王妃の亀田直子は優雅で鷹揚ながら、夫を指さす(カラボス忘れ犯)素早さも。カンタルビュットの奥田慎也は、落ち着きのある儀典長、王子フィアンセの山田美友は、気品のある立ち居振る舞い、ギャルソンの染谷野委は、癖のある演技で目を奪った。
3幕ディヴェルティスマンは実力派揃い。フロリナ王女の坂本菜々、青い鳥の藤島光太の高い技術と、晴れやかな踊りを筆頭に、宝石の岩崎美花、清水莉々咲が、確かな技術と抑制されたスタイルを披露する。いつものように藤島は、踊りを舞台に捧げる献身性が際立っていた(ファランドールも)。フォーチュン王子の土方一生、宝石のバトムンフ・チンゾリグ、古郡慈英のノーブルスタイル、狼の石原稔己の高い跳躍、長靴を履いた猫の鈴木諒羽はやや控え目だった。白猫は美脚の堀江結月、シンデレラはリリカルな井垣美穂、赤ずきんは愛らしい石本紗愛が務めている。1幕の花婿候補にはベテランの逸見智彦、江本拓が加わり、王道のノーブルスタイルを。ガーランド・アンサンブルは生き生きと粒立つ踊り、オーロラ友人たちはよく揃い元気だった。
指揮は井田勝大、演奏は大阪交響楽団。作品を熟知した井田の棒捌きで、常に全力の同楽団をコントロール、舞台の様式性と合致する引き締まった音楽を紡ぎ出した。