長谷川六パフォーマンス『透明を射る矢2ヒロシマ」

長谷川六のパフォーマンス『透明を射る矢2ヒロシマ』を見た(4月26日 森下スタジオ)。
長谷川の主宰するPAS東京ダンス機構による新作公演シリーズ「ピタゴラス2」の一環。今回は上野憲治との共演。両手奥それぞれに書見台を置き、原民喜『夏の花』の一節を交互に読み、交互にソロを踊る。
長谷川は黒いプリーツのソフトジャケットに黒のロングスカートで登場。「大の字」に立つと、黒子役の女性(後に衣装デザイナーと分かる)が、置いてあった赤い衣装と冠を長谷川に着せる。衣装は細かく切れ目が入り、体全体を覆う筒状のもの。同じ赤い布で作られた冠は、四角い底辺に山型の屋根を持ち、紐で固定する。シルエットは能衣装、赤いビラビラは原爆の業火を身に纏っているように見える。
上野が原民喜の言葉を読んでいる間、長谷川は研ぎ澄まされたフォルムで、空間を作る。「立つ」、それだけでスタジオを異化する。身体のあり方は能に近く、背後に無数のフォルムを感じさせる。両足で立つと左脚の曲りが深い。長谷川の表徴。手足は苦行僧のように極限の様相を帯びて、節があるのに優雅で美しい。このような能、または神事に関わる身体に加え、今回初めて太極拳の型と、気の放出を見せた。
赤い衣装を脱いだ後、『夏の花』の朗読へ。上野は美丈夫だが、まだ拮抗できる体ではない。長谷川は朗読を終えると、メガネを付けたまま奥の立ち位置へ行く。どうするのかと見ていると、何事もなかったようにメガネを置きに書見台へ戻った。以前シアターXの公演で、時計を付けたまま舞台に出たことがあるが、そんなことはどうでもよいのだ。
徹底したモダニズム美意識と、能、神事、武術の体の融合、そこに何でもありの精神が加わった踊り手。そして自分にとっては舞踊批評の唯一の師匠である。