ノエ・スーリエ『The Waves』+さいたまダンス・ラボラトリ公開リハーサル 2024

標記公演と公開リハーサルを見た(3月29日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール、3月27日 同大稽古場)。ノエ・スーリエは87年パリ生まれ。カナダ・ナショナル・バレエ・スクール、パリ国立高等音楽・舞踊学校、ベルギーの P.A.R.T.S. で学ぶ。劇場公演に留まらず、書籍、美術館でのパフォーマンスなど、多岐にわたる活動を行い、ムーヴメントの探求を続ける。現在アンジェ国立現代舞踊センターのディレクター(プログラム)。

公演、公開リハ共に、アンサンブル・イクトゥスのパーカッショニスト、トム・ドゥ・コック、ゲリット・ヌレンスが生演奏を行なった。シンバル、太鼓、金属製のおりん、楽器ではない物を、スティック、ブラシ、弦楽器の弓で、叩いたり、擦ったりする。公演ではガムランのような激しい撥さばきや、休憩(無音)も。

公演は6人のカンパニー・ダンサー、リハは17人のラボラトリ参加者が踊ったが、音楽は全く異なっていた。ダンスのシークエンス、ダンサーの呼吸を見ながら、即興的に合わせる印象。スーリエのディレクションは当然ありながら、生み出される音楽はインプロに近い。ダンスも、振付は示唆されるものの、ダンサーの呼吸が重視され、やはりインプロに近い。

公開リハの場合は、ムーヴメントが生み出される過程を、順を追って見せたため、最終章では達成の盛り上がりをダンサーたちは示したが、公演では、ムーヴメント生成の過程を波風立てることなく見せて、終わりなく終わった。PPトークでスーリエは「未然」という言葉を使っている。動き自体も寸止め、作品自体も終わらないという感触だった。ディレクションはあるが、動き、音楽はその場で生成される、言わばジャズのセッションのような公演。この劇場でこれほど作品化を志向しない公演があっただろうか。

表題はヴァージニア・ウルフの『波』から。その一節をステファニー・アムラオが3回語る(字幕付き)。「ミセス・コンスタブル」の件では2度繰り返した。1度は語りのみ、2度目は手話風の動きを付けながら。男女6人のモノローグからなる『波』の構造も、作品に反映されているようだ。

振付は、よける、打つ、投げる、蹴るなどの動作から派生するムーヴメントに、逆立ちを組み合わせている。膝下蹴り、バスケや砲丸投げのような動きも。ナン・ピアソンとアムラオのデュオは、プロレスの寝技風だった。ソロは語り手のアムラオを含めて3人。ピアソンのソロでは蹲踞風動き、ナンガリンヌ・ゴミスのソロでは、太極拳風引きが見えた。踊りの質は6人ともあまり変わらないが、船矢祐美子の硬質な体、ゴミスの強靭な下半身が目立っている。

奏者、演者ともに裸足。互いの気配を読み取りながら、瞬時に動き奏でるパフォーマンスを、観客もあるがままの姿勢で見る親密な公演だった。