NBAバレエ団「Grace & Speed 2024」

標記公演を見た(4月19日 大田区民ホール アプリコ)。バレエ団所属振付家による2作品に、PDD、グラン・パを組み合わせた充実のプログラムである。振付家の安西健塁、岩田雅女は、これまで古典全幕での新振付に力を発揮してきた。安西はキャラクター色濃厚なソロや群舞、岩田は情感豊かなPDDを得意とする。今回バレエ団公演で初めて自作を披露する。

幕開けは安西振付の『交響的舞曲』。ラフマニノフの同名曲第3楽章に振り付けられた。久保綋一芸術監督からは「古典を」と言われたとのこと。シンフォニックバレエが想定されたと思われるが、物語寄りのアプローチだった。ある作曲家(刑部星矢)が人生を回顧する。これまで作曲した音楽のミューズ達(精霊風)が踊るなか、一人の女性(渡辺栞菜)が立ち現れる。Symphony No.1 と名付けられたその人と、作曲家はPDDを踊る。最後は全員で作曲家を囲んで幕となる。

安西が同曲と向き合うなかで感じ取った作曲家の人生だが、山本開斗、ネレア・バロンドのゲストカップルが存在感を示したため、主人公の影がやや薄れた印象を受ける。刑部の雄大なロマンティシズムが、完全に花開いたとは言い難かった。また、ミューズ役として主役級の男女6組を駆使し、音楽と動きの一致した躍動感あふれる振付を展開させたが、初演とあって、ラフマニノフそのものを聴かせるには至らなかった。安西は特異なキャラクターを持つダンサーで、唯一無二の個性を発揮してきた。今後はそうした資質を生かした作品も見たい気がする。

第2部は『ダイアナとアクティオン』PDDと、『ライモンダ』よりグラン・パ・クラシック・オングルワ。勅使河原綾乃のダイアナは、女神というよりも妖精の可愛らしさが前面に出る。回転技の切れは相変わらず。アクティオンの栁島皇瑤は真っすぐに振付を遂行。踊りの熱量に狩人の生気が迸った。8組の男女アンサンブルを従えるライモンダには山田佳歩、ジャン・ド・ブリエンヌは宮内浩之。山田のきらめく体、動きの切れ、ピンポイントの音楽性が、気品あふれるライモンダを造形する。対する宮内は、上体を大きくそらせるダイナミックな振付を端正に踊り、ベテランらしい安定感を示した。新井悠汰、伊藤龍平、刑部星矢、孝多佑月による4人ヴァリエーションは、トゥール・アン・レール5番着地を徹底。全体に細やかな指導を窺わせる仕上がりだった。

第3部は山本とバロンドによる『ロミオとジュリエット』のバルコニーPDD(振付:フリードマン)から。ダイナミックな山本と可憐なバロンドによる息の合った恋の踊り。カーテンコールのマナーも情熱的だった。

最後は岩田振付『Schritte』。昨秋のジュニアカンパニー公演で初演された時は、女性のみの群舞作品だったが、今回はバレエ団の男女ダンサーに新たに振り付けられた。ミニマル打音曲やクラシック曲など、場面ごとに音楽が変わるが、振付は極めて音楽的。連続する動きで音楽全てを使い切るタフな振付である。さらにダンサーの個性を捉え、それに合わせたシークエンスを編み出すなど、師匠の故矢上恵子を思い出させた。

岩田の得意とするPDDは、コンテンポラリーダンスでも同じ。「魂から繋がり、肉体で語りかける」(プログラム)の言葉通り、勅使河原と伊藤のPDDは、コンテ語彙による愛の形だった。勅使河原の愛らしさ、伊藤のノーブルで熱いパートナリング。しみじみと深みがあり、胸を打った。女性2人の手つなぎデュオ、男性陣のユーモラスな戦いも楽しい。内村和真のマッチョな個性とブレイキン、新井の人間跳び箱など。コーダは全員が両手を大きく振りながら踊りまくる(ビントレーの『ペンギン・カフェ』を想起)。祝祭的な幕切れだった。岩田コンテ版『R&J』が目に浮かぶ。