牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』2015

標記公演評をアップする。

都内有数のバレエ会場、ゆうぽうとホールが、15年9月一杯で閉館した。33年の長きにわたってホールに親しんできた牧阿佐美バレヱ団は、年末の『くるみ割り人形』を一足早めて、ホールに別れを告げた。バレヱ団の母体、橘秋子記念財団による補助金問題報道に揺れた一週間だったが、舞台はいつも通りのレベルの高さ。主役は言うまでもなく、マイム役から子役まで、指導の行き届いた老舗の味だった。


バレヱ団創立60周年記念公演の第3弾となった『くるみ割人形』は、総監督三谷恭三の演出・改訂振付による。ドロッセルマイヤーが広間の壁から登場し、その甥が活躍するなど、演出の面白さに加え、デヴィッド・ウォーカーの美術とポール・ピヤントの照明が相乗的に作り上げる豪華で繊細な空間は、他版にはない魅力である。一幕の雪混じりの月光、広間の暖かい燭台の灯り、二幕の豊饒を意味する黄金の照明など、何度見ても素晴らしい。


主役トリプル・キャストのうち、最終回の中川郁と清瀧千晴を見た。中川は6月の『リーズの結婚』に続き、初役の主役。物怖じしない伸びやかな踊り、翳りのない明るいオーラで、舞台に新風をもたらした。清瀧も、いつもながらの高い跳躍に、今回は落ち着いた王子ぶりを見せる。爽やかなカップルだった。


ドロッセルマイヤーはノーブルなラグワスレン・オトゴンニャム。その甥の細野生が、切れのある美しい踊りと安定したサポートで、またくるみ割り人形の今勇也が、鮮烈なアラベスクで存在感を示した。


今回花のワルツ配役の青山季可は、にこやかな佇まいに隙のない動きで貫禄の踊り。他日金平糖の精を踊った織山万梨子の凛とした美しさも印象深い。実力派の茂田絵美子(雪の女王)、久保茉莉恵(アラブ)は、残念ながら本調子とは言えなかった。


最後はカーテンコール無し。「33年間、ありがとう」の横断プレートを掲げ、ホールに感謝を捧げて幕が降りた。練達の指揮者デヴィッド・ガーフォースが、東京オーケストラMIRAIから、豊かで暖かみのある音を引き出している。(9月6日 ゆうぽうとホール) *『音楽舞踊新聞』No.2957(H27.10.15号)初出