第13回世界バレエフェスティバルBプロ

世界バレエフェスのBプロを見た(8月13日 東京文化会館)。全体の感想は、バレエフェスが新たな局面に立っているということだった。
これまで佐々木忠次の一流豪華路線を突き進み、徐々に斜陽の雰囲気を漂わせていたのが、今回はそれぞれのダンサーが伸び伸びと個性を発揮し、等身大のガラ公演となっていた。一つは東日本大震災のチャリティ・オークションが行われること、NHKがTV収録し、仙台等の映画館で無料公開される予定になっていることも、あったかもしれない。
もう一つは、シルヴィ・ギエムの不在。独立独歩、教師(歴史)から切り離され、全てを自分の目で解釈し直す、言わば実演者と批評家が合体したバレエダンサーである。その解釈と実現の絶対性は、他のバレリーナの居心地を悪くさせたことだろう。その中心軸がなくなり、それぞれのダンサーは心置きなく個性を追求できることになった。
最も印象に残っているのは、ラコットの『ラ・シルフィード』を踊った、エフゲーニャ・オブラスツォーワ。NBAで踊ろうと、バレエフェスで踊ろうと全く変わりのない舞台への献身性である。シルフィード・スタイル、姿形、技術は言うまでもないが、その踊りのぶれの無さに、驚きを感じる。
もう一人は、43歳で初出場のイーゴリ・ゼレンスキー。セミオノワを相手に『シェヘラザード』を踊った。西欧化していないソヴィエトの味。重厚でクール、少しノンシャランなパートナーで、相手を冷静に見ているのがおかしい。何よりも跳躍の重みのすばらしさ。飼い慣らされない、つまりは消費されない男性ダンサーは、ロシアからしか出てこないのだろうか。
もう二人はフランス人。ノイマイヤーの『アダージェット』を踊ったエレーヌ・ブシェと、『椿姫』3幕pddを踊ったステファン・ビュリョン。
ブシェの糸を引くようなつややかな脚は、オペラ座エトワールのルテステュ、デュポンを上回っていた。ノイマイヤー初期の、動きをよく作り込んだpddが、ブシェの優れた解釈と音楽性によって蘇る。マーラーの「アダージェット」を理解していた。
ビュリョンは、ルグリ公演で初めて見たときから、強烈な存在感を発していた。その黒い情熱。熱くて暗い。役柄は限られるだろうが、バレエ団での純粋培養でしか育まれない個性だと思う。