東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』2014

標記公演評をアップする。

東京シティ・バレエ団が都民芸術フェスティバル参加公演として、伝統の石田種生版『白鳥の湖』(70年)を上演した。石田版はセルゲーエフ版に準拠、四幕での日本的美意識に沿った独自の白鳥隊形が大きな特徴である。終幕のオデットと王子の静謐なデュエットが、白鳥達の巻き貝のようなフォーメイションの核となる構図が美しい。最後はブルメイステル版同様、愛の力で魔力に打ち勝ち、オデットが人間の姿に戻る結末である。


今年は石田の三回忌に当たり、没後初めての『白鳥』上演になる。演出は初演時から出演の金井利久が担当、加えて民族舞踊指導に小林春恵、指導にレイモンド・レベックを招いた。以前は古典的な様式美を前面に出す抑制された演出だったが、今回はそこに溌剌とした動きと躍動感あふれる民族舞踊が加わり、バランスの取れた上演となった。またヴィジュアル面も刷新。衣裳は小栗菜代子、装置は横田あつみ、照明は足立恒。美しく格調高い衣裳に、陰翳の深い舞台空間がマッチしている。


主役はWキャスト。初日のオデット=オディールには志賀育恵、二日目は若生加世子、ジークフリード王子は黄凱とユニバーサル・バレエのオム・ジェヨンの配役。初日の志賀と黄を見た。志賀はこれまでの体がはじけるような奔放さが型に収まり、繊細な腕使いと美しい脚線が目に見えるようになった。その上でなお、羽ばたきは生き生きと力強い。ポーズの美を追求するのではなく、動きの留めとしてのポーズがある。運動の快楽を感じさせる稀有な踊りだった。対する黄はラインの美しさが健在。志賀との呼吸もよかったが、役ではなく素で立っている。踊りの切れも以前程ではなく、そこだけ空虚な時間が流れていたのが残念。ロートバルトの小林洋壱はノーブルで大きさもあったが、もう少し鋭さが望まれる。


道化の玉浦誠の美しく切れのよい踊りと献身的な演技が、舞台を大きく活気づける一方、王妃の安達悦子は、王女がそのまま后になったような愛らしさと、少しそそっかしさも見せて舞台に生気を与えた。初役だろうか。パ・ド・トロワ大内雅代、佐合萌香、内村和真のレヴェルの高い踊り、三羽の白鳥佐々晴香の気っ風のいい江戸前の踊りが印象深い。キャラクターダンスでは、特にチャルダッシュマズルカの切れと撓めが素晴らしかった。井田勝大指揮、東京ニューシティ管弦楽団は、行儀のよい演奏だった。(1月25日 ゆうぽうとホール) *『音楽舞踊新聞』No.2920(H26.3.1号)初出

王子の黄凱は大陸的な鷹揚さを持つ、稀にみるダンスール・ノーブルである。時折舞台への誠実さに欠ける場合があり、今回がそうだった。公演翌日、某発表会で完璧なまでの美しい踊りを見せていた分、辛口評になった。