黒沢美香『薔薇の人―deep―』

標記公演を見た(8月27日夜 横浜氏大倉山記念館ホール)。黒沢を見るのは何年か振り。たぶん『roll』くらいまで見ている。今回見ようと思ったのは、4月にお父さんの輝夫氏がお亡くなりになり、5月の現舞公演でそのお父さんの映像を見たから。
中年女のような幼児のような肉体は相変わらず、その上に昭和の濃厚な顔が乗っている。着物を着せて寺山修司の舞台に放り込みたいような肉体。両胸には赤塚不二夫のぐるぐる巻きが描かれている。ポストモダンダンスだが、肉体のせいで舞踏にも見えるところが、黒沢の可能性の中心だろうか。
途中の寸止めアンシェヌマンがやはり面白かった。以前、パの胎生のような動きを見たのを思い出した。一通り踊って、最後は思い入れをして終わった(1時間)。黒沢がゆっくり退室しようとした時、入り口付近に座っていた舞踏評論家の合田成男氏が、三回大きな拍手をした。黒沢退出。その後、空間が固まったかのように、誰も身じろぎせず、無音。1分程たってから(長いと思ったけど、たぶん1分くらい)、拍手があり、黒沢が戻ってきてレヴェランス。あるいは黒沢が戻ってくる気配があって、拍手だったかもしれない。一方、合田氏は拍手した後、少しして立ち上がり、帰ろうとしたが、黒沢と鉢合わせになり、スタンディング・オベーション。黒沢も目で挨拶したようだった。
あれは何だったのか。合田氏の拍手に全員が飲み込まれたのか。空間の気がほどけた時は、はっきり分かったので、全員が同じ身体状況にあったのだと思う。木の円柱が寄せ木の天井を支える、特異なホールだったからかも。能舞台や土俵のように、部屋の中に屋根があるみたいな。