東京小牧バレエ団『牧神の午後』他2014

標記公演評をアップする。

東京小牧バレエ団が、日本・モンゴル国文化取極締結40周年記念として、『牧神の午後』、『イゴール公』、『ペトルウシュカ』を上演した。上海バレエ・リュスのソコルスキー版を小牧正英が日本に移植した、歴史的価値の高い作品群である。モンゴル人ダンサーのレヴェルの高さ、日本人若手ダンサーの活躍が目立つ公演だった。


『牧神の午後』はソコルスキー版がそのまま残されているとのこと。パリ・オペラ座版に比べると、ニンフたちの動きがおっとりして、より自然に見える。牧神を踊ったアルタンフヤグ・ドゥガラーははまり役。獣性は控え目で、植物的な伸びやかさ、特有の湿り気がある。周東早苗の貫禄十分なニンフと、闊達な戯れを見せた。


イゴール公』はロシアの伝統的演出(イワノフ版?)とフォーキン版を、両方踊った小牧が組み合わせたもの。佐々保樹の改訂振付により、高度な技術とスタイルの徹底が実現されている。中央アジアの平原やオアシス、パオを描いたドロップ、迫力ある混声合唱(東京合唱協会)も、作品のスケールアップを後押しした。


主役のフェタルマには新人の清水若菜を抜擢。動きの切れがよく、小柄な体から火のようなエネルギーが迸る。適役だった。隊長のビヤンバ・バットボルト、副隊長のガンツオジ・オトゴンビヤンバ率いる武士たちも勇壮で、よく統率されている。スラブ娘 長者完奈のしっとりした情感、ポロヴィッツィ娘 藤瀬梨菜の涼やかさ、イゴール公 原田秀彦の凛々しさが印象深い。


ペトルウシュカ』は一場、四場の「広場」を小牧が改訂し、二場、三場の「人形の部屋」はフォーキン=ソコルスキー版を踏襲したとのこと。人形を部屋に蹴りこむ、見せ物師の大きな長靴が面白い。ペトルウシュカはドゥガラー、バレリーナは金子綾、ムーア人はバットボルトという配役。3人形は現行版よりも人間味にあふれる。ペトルウシュカの嘆きも自然な感情の流れに沿ったもので、ニジンスキー神話に毒されていなかった。


「広場」の女性アンサンブルはこのバレエ団ならではの素朴な味わい。男性アンサンブルは音取りが揃わなかったが、力強い踊りだった。アクロバットの清水、街の踊り子の藤瀬が大道芸の情緒を醸し出す。見世物師のグリゴリー・バリノフは久しぶりの登場で、明晰なマイムを披露した。


内藤彰指揮、東京ニューシティ管弦楽団が、ドビュッシーボロディンストラヴィンスキーを生き生きと演奏し、舞台作りに大きく貢献した。(8月23日 新国立劇場オペラパレス) *『音楽舞踊新聞』No.2937(H26.11.11号)初出