日本バレエ協会関東支部埼玉ブロック『白鳥の湖』2014

標記公演評をアップする。

日本バレエ協会関東支部埼玉ブロックが結成35周年を記念して、『白鳥の湖』全幕を上演した。演出・改訂振付は東京バレエ学校出身で、助教師としても活躍した木村公香。縁の深いゴルスキー=メッセレル版を原版としている。


木村演出の美点は、セリフの聞こえる緻密なマイム、特徴を明確に打ち出したキャラクターダンス、闊達な音楽性にある。振付そのものは東京バレエ団の現行版とほぼ同じだが、二幕グラン・アダージョでのアンサンブルの動きを、主役に寄り添う穏やかな振付に変えたため、東京バレエ団版よりも主役への集中が容易になった。


オデット=オディールには、埼玉ブロックにゲスト出演を重ねる酒井はな、王子は新国立劇場バレエ団の奥村康祐という適役の二人が配された。長年同役を踊り込んできた酒井は、臈長けた美しさを身に纏っていた。これまでは自らの解釈をパトスの力で前面に押し出す息詰まるオデットだったが、今回は解釈を内に秘め、形の美しさで感情を表している。現在の境地を隈無く映し出す、酒井らしい生の魅力も健在。オディールは豪華で輝きにあふれている。フェッテは美しく気品に満ちたシングルだった。


奥村は若くロマンティックな王子、はまり役である。前半の憂愁、後半の喜びを、ノーブルな立ち居振る舞いで素直に演じきった。少しマザコン風の味付けもある。


脇役も適材適所。王妃の西川貴子は、新国立劇場バレエ団の同役でも優れた演技を見せたが、木村演出が入り、一段と風格が増した。ロットバルトの敖強(谷桃子バレエ団)は切れ味鋭い踊りと力強い演技で、道化の大森康正(NBAバレエ団)は折り目正しい踊りと献身的な演技で、ヴォルフガングの原田秀彦はノーブルな佇まいで、舞台に厚みを加えている。


またパ・ド・トロワで、淑やかな伊地知真波、クラシカルな榎本祥子をサポートした酒井大の覇気ある踊り、スペイン檜山和久の美しくスタイリッシュな踊り、スタイルをよく心得た男性アンサンブルと、谷桃子勢が舞台の底力となった。


ブロック所属のソリスト、アンサンブルは、一、三幕のキャラクターダンスで生き生きとした踊りを披露。白鳥群舞は必ずしも揃ってはいなかったが、音楽と心を一つにして踊る喜びを感じさせた。(9月14日 川口総合文化センター リリアメインホール) *『音楽舞踊新聞』No.2937(H26.11.11号)初出